夏の砦 の商品レビュー
著者初の長編という、ういういしい作品。 物語性があり、文章も精緻を究め、なおかつ淡麗。芸術の芸術たるところを高めて語っている。 構成がちょっとややこしい…(夏目漱石の『こころ』を思いだします) まず、語り手のあるエンジニアが登場。支倉冬子という若き女性と知り合い、つかのまの...
著者初の長編という、ういういしい作品。 物語性があり、文章も精緻を究め、なおかつ淡麗。芸術の芸術たるところを高めて語っている。 構成がちょっとややこしい…(夏目漱石の『こころ』を思いだします) まず、語り手のあるエンジニアが登場。支倉冬子という若き女性と知り合い、つかのまの交流ののち、突然冬子が北の海でヨットに乗ったまま行方不明になってしまった、ところから始まります。彼がエンジニア魂を発揮し、冬子の軌跡を辿って彼女の日記や手記、最後に届いた手紙を見ていく構成です。 北の海と言ってもそれは日本ではなく、スカンジナビア半島に近いバルト海らしい。語り手としりあった場所もその周辺と思われる仏独に近い北の国なのです。「デンマーク?」と思うのだが...ま、それは重要ではありません、北欧のある国でいいのでしょう。 そういえば物語も「人魚姫のものがたり」を彷彿させるかも。かなわない恋に向かってひたむきなのだけれども、泡となってしまったという。 そう、冬子はかなわない恋(芸術性)を求めて、北の国に織物工芸の学生となって、留学していたのでした。語り手と知り合ったころには、彼女の憂愁な様子を見受けます。でも、語り手とは悩みの真実を語らず穏やかに交流。その後行方不明、生死不明になり、語り手の後悔と探求心を刺激したのでした。 そして、日記と手記を辿って彼女の生きた物語が明かされていきます。戦前の裕福で文化的な生活が描かれますが、思うに、一時期、それでもいい時代があったのですね、佐藤愛子『血脈』や北杜夫『楡家の人々』の世界ですね。現実わたしなども姑や夫からその生活ぶりをどれだけ聴かされたか。(なんにもない戦後に物心ついたわたしはちょっとうらやましかったのが本音) この冬子の物語も大木クスノキ(樟)の葉のざわめく大きな屋敷を中心に展開します。その物語が流麗に語られて、冬子の人となりを醸し出します。言うなれば贅沢な話ばかりです。それも芸術性に富んで美しく語られるのですから。しかし、喪失の痛みが潜んでいたとは...。 さきに読んだ中編『回廊にて』を発展させたものと、作者も言ってます。このわたしが読んだ『辻邦生作品集 2』には大部(2段組100ページ)な作者の「創作ノート」が採録されていて、試行錯誤、小説を紡いだようすがわかり、作者の意気込みが伝わります。 ここから「辻邦生」がはじまったのですね。文学の芸術性を求めて。
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辻邦生 「 夏の砦 」 生命力ある美を創作するまでの 主人公の精神的な遍歴を描いた小説。創作の基本様式が 個性となるまでの心理過程とも読める 精神的な遍歴 *母の作品の世界を 私なり(私の情感を入れて)に完成 *自分の作品にへの倦怠感→様式が意味のない存在 *無名の精神〜職人...
辻邦生 「 夏の砦 」 生命力ある美を創作するまでの 主人公の精神的な遍歴を描いた小説。創作の基本様式が 個性となるまでの心理過程とも読める 精神的な遍歴 *母の作品の世界を 私なり(私の情感を入れて)に完成 *自分の作品にへの倦怠感→様式が意味のない存在 *無名の精神〜職人の虚栄、自惚れ、自意識のない精神 *物狂いし〜織地を 苦痛と甘美な思いで 織りつづける *自ら考えた世界だけが 存在する世界→自分の世界=家族との幸せの日々〜かって在った 自分の世界に還る 「芸術は〜生活に密着しなければいけない」 *美は人間の魂の温みにより 生命力をもつ *美は人間の魂、生の陰影、哀歓と結びついているはず *実用性は 美の自律性により無目的、無秩序化していく芸術に 健康的な血を送り込む *美の自律=美の孤立→人間不在の匂い→虚空の中の美 「偉大な個性は学ぶことができない。それは唯一のものだから〜基本の様式は学ぶことができる〜その様式を通してのみ〜偉大な個性も花咲くことができる」
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初期の長編小説。 P+D BOOKSからは『廻廊にて』に続いて2作目。本作も『女性の芸術家』という存在がかなり大きかった。そこはかとなく官能的なところも良かった。 巻末に創作ノートも収録。
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