演説歌とフォークソング の商品レビュー
著者が恵泉女子大学で行った講義「音声表現」を、あらためてまとめたもので、フォークソングの歴史を概観し、今後を展望する内容になっています。著者は主張や思いを歌で表現しようとする姿勢を「フォーク精神」と呼び、その原点を求めて歴史を遡っていきます。 この本の新味は、従来のフォークソ...
著者が恵泉女子大学で行った講義「音声表現」を、あらためてまとめたもので、フォークソングの歴史を概観し、今後を展望する内容になっています。著者は主張や思いを歌で表現しようとする姿勢を「フォーク精神」と呼び、その原点を求めて歴史を遡っていきます。 この本の新味は、従来のフォークソング解説本の多くがカレッジフォーク時代あたりから話を始めるのに対して、もっとはるか先、19世紀の自由民権運動までも広義のフォークソングととらえていること、そして浪花節や講談等までを分析の対象にしている点にあります。 この着眼点には感心しましたが、正直、私には少し退屈でした。フォークソングを精神でとらえ、自由民権運動まで遡る、これには異論はないのですが、著者はあまりに間口を広げ過ぎて、話が散漫になってしまっているような気がします。例えば著者は、効果的な演説術をAKB48出身の高橋みなみの著書「リーダー論」から引用して語ります。この本の元が大学での講義だったことを考えると、学生になじみ深い芸能人を登場させ、フォークソングを知らない世代の興味を引くという事情があったのだろうと推察しますが、それでも私の感覚ではAKB48は著者の言う「フォーク精神」とはあまりにかけ離れています。また、高橋の述べる演説のテクニックそのものも、あえて引用すべきほどのものとは思われず、この本には不適な気がしました。 また、講談等の芸とフォークソングを結びつけるのも、私は少し強引な印象を持ちました。(これはもしかしたら、著者が高田渡の歌に感銘を受けてフォークソングの世界に入っていったことと関係があるかもしれません) それから、著者の言葉遣いが気になる個所が、私には結構ありました。 「現実という事実を報道しなかった」 「どの時代にも囲まれる問題点は似ている」 「現実という事実」「時代に囲まれる問題」、こうした表現はそれらしく見えますが、不正確で評論には不適だと思うのですが、この本には類似の表現が随所にあり、私は読んでいて気になりました。 それでも、フォークソングの原点を従来より一歩進んだ視点でとらえていることや、歌の主体が「わたしたち」から「わたし」に変わっていったことに着目するなど、評価できる点も多い本だと思います。
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