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組織の経済学入門 改訂版 の商品レビュー

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2024/10/06

「組織の経済学」は「新制度派経済学」とも呼ばれ、経済学の中でも歴史の新しい分野である。本書は、その入門書。うまく理解できたかどうかは心もとないが、私の理解を引用を含めて下記したい。 ■「組織の経済学」は、経済学と経営学の両方にまたがる学際的な学問領域であり、経営学で扱われてきた...

「組織の経済学」は「新制度派経済学」とも呼ばれ、経済学の中でも歴史の新しい分野である。本書は、その入門書。うまく理解できたかどうかは心もとないが、私の理解を引用を含めて下記したい。 ■「組織の経済学」は、経済学と経営学の両方にまたがる学際的な学問領域であり、経営学で扱われてきたさまざまな対象を経済学的な手法を用いて分析するという新しい研究領域である。今日、経済学や経営学分野で最も注目され、急速に発展してきた学問領域であり、この分野での研究でのノーベル賞受賞者も数多い ■20世紀の経済学は、「新古典派経済学」の名のもとに、市場の理論を高度な数学を用いて精緻化しようとした。新古典派経済学では、市場を唯一絶対的な効率的資源配分システムとして説明するために、企業は「完全合理的」に「利益最大化」する経済人として仮定した ■これに対して、経営学分野からサイモンが批判を行った。人間は経済学で仮定されているような完全合理的な経済人ではないとし、何よりも人間の情報収集・処理・伝達能力は限定されており、限定された情報の中で意図的に合理的にしか行動できない、すなわち人間は「限定合理性」に従って行動しているとした ■そのような考えのもと、サイモン、サイアート、マーチらによって展開されたのが「企業の行動理論」である。企業組織は、株主、経営者、労働者、債権者、流通業者、下請け、顧客等のさまざまな固有の利害をもつ参加者の連合体とみなされ、株主の利益だけを最大化するのは不可能だと考えた。参加者の利害はそれぞれ異なるので、組織内ではコンフリクトが発生する。これら異なる利害をもつ参加者間に発生するコンフリクトはいかにして解決されうるのか、その意思決定プロセスを記述することによって、企業行動を理解しようとする研究が企業の行動理論だったのである ■一方、経済学内部からもヴェブレンを中心とする制度派経済学者たちが、新古典派の企業観を批判してきた。その流れをくんだのが、バーリとミーンズであり、彼らは、巨大企業では所有と支配が分離しているため、現代巨大企業は利益最大化していないとして新古典派経済学を批判した。これが、有名な「所有と支配の分離」である ■この理論を積極的に取り入れ、ボーモル、マリス、ウィリアムソンらが「経営者支配の企業理論」を展開した。所有と支配の分離によって自由裁量を勝ち取った経営者は、もはや株主の忠実な代理人として利益最大化するのではなく、何らかの制約のもとに経営者自身が望む固有の目的を追求するものと考えた ■以上のような経営学と経済学の流れから、人間は限定された情報能力の中で意図的に合理的にしか行動できないという「限定合理性」の仮定と、人間は効用を最大化するという「効用最大化」の仮定を受け継いで登場してきたのが組織の経済学あるいは新制度派経済学である ■この新制度派経済学は、コースやウィリアムソンたちによって展開された「取引コスト理論」、ジェンセンやメックリング、ファーマたちによって展開されてきた「エージェンシー理論」、また、アルチャンやデムセッツたちによって展開されてきた「所有権理論」などの、一連の理論郡から構成されている ■新制度派経済学を構成するこれら3つの理論はいずれも組織を経済学的に分析しているので、今日、狭い意味で「組織の経済学」と呼ばれている。 ■また、近年、これと並行して経営戦略や戦略的経営を経済学的に分析するアプローチが急速に発展し、注目されている。とくに、この経済学的な戦略論分野はマイケル・ポーターの「競争戦略論」を出発点とし、「資源ベース理論」、そして今日「ダイナミック・ケイパビリティ理論」へと急速に発展してきている ■さらには、組織の経済学の名のもとに、今後さらに発展していくと思われる有力なアプローチがある。それは、「進化経済学アプローチ」「行動経済学(経済心理学)アプローチ」「法と経済学アプローチ」「ゲーム理論アプローチ」である 本書で説明されているのは、おおよそ、上記のようなことだと理解した。 数十年前の話になるが、私は大学では経済学を専攻したが、上記の理論は、大学の授業では教えられていなかった(あるいは、教えられていたのであるが、私が勉強していなかった)。経済学という分野も、かなりのスピードで進化しているのだと感じた。 それぞれの理論について理解したとは言い難いが、「組織の経済学」「新制度派経済学」(あるいは、「経営経済学」と呼ばれることもあるようだ)の歴史と流れについては、少しは頭に入ったと思う。 本当によくできた入門書だったと思う。

Posted byブクログ