ロロ・キドゥルの箱 の商品レビュー

中島成久(著者)

2010/07/12

ジャワ人はワヤンの世界より数々のメッセージを読みとる。あるものは、ワヤンの英雄と自己の同一視をはかり、あるものは、道化の活躍にカタルシスを覚える。
ジャワの宇宙論において、病、災厄はしばし海からもたらされる。悪魔という観念は非科学的なものであろうが、人間の不幸、災厄を説明する思考体系の重要な一部であり、それなしには人間回の秩序は成立しえなかった。神々を呼び、悪魔を祓うルワタンはジャワの言葉の宇宙の中心にあって、ワヤンの原像としての姿を今に伝えている。
音の使用と不使用はともに移行、境界にかかわることができる。調和のとれた音階の連続は、宇宙論的体系の秩序のとれた世界を表しうる。過剰なまでの騒音は敗れた宇宙論的秩序を埋める試みである。厳しい音の静寂はあふれた危険な宇宙論的秩序を安定するための試みである。