親鸞 の商品レビュー
「ミネルヴァ日本評伝選」シリーズの一冊ですが、親鸞にかんする伝記的事実をまとめた本というよりも、著者自身の関心にそって、親鸞の思想を理解するためのいくつかの問題点を提示する内容となっています。 著者は本書の冒頭で、明治以降の親鸞研究についてごく簡潔な見取り図を示しつつ、戦後の実...
「ミネルヴァ日本評伝選」シリーズの一冊ですが、親鸞にかんする伝記的事実をまとめた本というよりも、著者自身の関心にそって、親鸞の思想を理解するためのいくつかの問題点を提示する内容となっています。 著者は本書の冒頭で、明治以降の親鸞研究についてごく簡潔な見取り図を示しつつ、戦後の実証的な親鸞研究の立場を超えて、「語られた親鸞」にも目を向ける必要があると主張します。 また本書の第三章では、親鸞の思想についての著者自身の見解が提示されており、とくに近代的解釈を乗り越えて親鸞の思想の新たな可能性をさぐりあてようとする試みがなされています。著者は親鸞の思想をめぐって、「そこでは社会的実践を含む諸行は否定されるのであろうか」「そこでは死後の問題は排除されているのであろうか」「親鸞の思想は大乗仏教と異なるものであろうか」といった問題を立て、主に『教行信証』の二種廻向論を重視する立場から、大乗仏教の実践思想を継承するものとして、「往相」と「還相」の両面に目を向けた親鸞の思想の意義について論じられています。 さらに親鸞没後における伝説的な言説についても検討をおこない、中世的世界の信仰のなかで親鸞がどのように理解されていたのかという問題にも、ある程度立ち入った議論が展開されています。 本書の「あとがき」には、日文研における著者の同僚だった梅原猛や山折哲雄との議論から刺激を受けたと書かれていますが、親鸞解釈において二種廻向論を重視する著者の立場は、やや京都学派的な偏りがあるようにも感じられます。
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