恋天狗 他一編 の商品レビュー

山手樹一郎(著者)

2024/09/05

「恋天狗」と「地獄ごよみ」の二作品を収録しています。

「恋天狗」は、幕末の江戸を騒がせる「貧窮組」という暴徒たちのなかに交じっていた、青井鬼太郎を名乗る男の物語です。与力の佐川剛造は、かつて彼が死に追いやったはずの豊田良次郎が青井の正体ではないかと考え、彼を捕らえようとします。一方、青井に助けられることになったお万は、何度も窮地に陥る彼の身を案じて、青井と佐川の対決にみずから乗り込んでいこうとします。

「地獄ごよみ」は、ミステリ仕立ての内容になっています。鶴木伸介は、姉のお香の小間使いをしていた美乃が平戸屋の磯右衛門のもとに嫁ぎ、彼の死後も独り身を通していることを知ります。彼女を自分の妻に迎えようとする伸介でしたが、平戸家の財産と彼女自身をねらう大番頭の島右衛門や、磯右衛門の義弟だった鎌吉が次々に殺害され、伸介も翁の面をつけた男に命をつけねらわれます。伸介は、翁の男から美乃を守りながら、その正体をあばこうとします。

「地獄ごよみ」は、これまで読んだことのある著者の作品とはすこしちがったテイストですが、現代のエンターテインメント小説のようなスリリングな展開がたのしめました。