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世界国勢図会 第26版(2015/16) の商品レビュー

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2021/09/16

最新の社会・経済統計をもとに世界の現状を表やグラフで明らかにしたデータブックである。冒頭には世界地図が掲載されているが、日本でよく見る日本中心の地図ではなく、ヨーロッパ中心の地図である。自国を相対化する視点を持つことができる。 コラムも充実している。自殺率は日本が高いが、財政危機...

最新の社会・経済統計をもとに世界の現状を表やグラフで明らかにしたデータブックである。冒頭には世界地図が掲載されているが、日本でよく見る日本中心の地図ではなく、ヨーロッパ中心の地図である。自国を相対化する視点を持つことができる。 コラムも充実している。自殺率は日本が高いが、財政危機のギリシアは低い。経済成長が人間の幸福に結び付くとは言えない。先進国の自殺率の傾向をあげると旧社会主義国や東アジアで高く、南ヨーロッパで低い(444頁)。旧社会主義国と東アジアで共通して高い。公益重視の社会は個人が抑圧されて自殺が増えるということだろうか。 今の世界の大きな問題は難民や国内避難民の急増である(42頁)。主要な発生国はシリアであり、シリア内戦の深刻さを示すものである。一方で内戦前のシリアはアサド独裁政権であり、好ましい政治体制とは言えない。少数派のアラウィー派が多数派のスンニ派を支配する体制であった。報道ではイスラム国の残虐性が強調される傾向があるが、アサド政権も狂信的ではないとしても十分に残虐であった。従って単に内戦がなければいいというものでもない。 そもそも現在のシリアという国家の領域自体が英仏の植民地化の中で決められた不自然なものである。その意味ではイスラム国がシリアとイラクの国境線を否定していることには一定の利がある。そのイスラム国についても本書はコラムを設けている(469頁)。 報道ではイスラム国を否定する立場から「イスラム国」の表現を使用せずにISなどと記載する例もある。これに対して本書は「イスラム国」の表現を使用し、「イスラム国家の樹立を宣言した」とイスラム国の立場も説明している。勿論、「イスラム諸国ではイスラム教の教えと全く異なると反発している」とイスラム国への批判も記載する。「イスラム国」の存在を把握しようとする良心的な学問的姿勢と評価する。

Posted byブクログ