砲・工兵の日露戦争 の商品レビュー
これまで歩兵中心で批判されがちであった日本陸軍用兵思想を、従とされていた砲兵・工兵視点から考察した良書。日本陸軍の日露戦争戦訓研究、海外のそれを逆輸入して研究した事を、戦術だけでなく兵器の視点からも分析している点が画期的。 取り上げた資料も、国会図書館デジタルコレクションやアジ...
これまで歩兵中心で批判されがちであった日本陸軍用兵思想を、従とされていた砲兵・工兵視点から考察した良書。日本陸軍の日露戦争戦訓研究、海外のそれを逆輸入して研究した事を、戦術だけでなく兵器の視点からも分析している点が画期的。 取り上げた資料も、国会図書館デジタルコレクションやアジア歴史資料センターで公開されていて後から他者が後追い出来るものがほとんどであり、読者にとっては有難いと感じた。 しかしながら、結論部分について「なぜ日本陸軍は白兵主義に傾倒していったか」については、それまでの章とは温度差を感じるほど低調に終わってしまっていて少し残念。 とはいえ、新たな視点での日本陸軍用兵思想研究である事は間違いなく、今後の同様の研究には先駆的となるものであろう。私も日本陸軍用兵思想を研究しているので、大変参考になった。
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日本軍の砲兵・工兵が日露戦争で得た戦訓と、その後の制度改革。 日本軍の歴史の一部を切り取って考察している本ですから、この一冊で日本軍というものが判る訳ではありません。 しかし、本書に出てくる日本陸軍の姿は、乏しいリソースをやりくりしながら、戦訓や先進的な欧米の施策や研究成果とい...
日本軍の砲兵・工兵が日露戦争で得た戦訓と、その後の制度改革。 日本軍の歴史の一部を切り取って考察している本ですから、この一冊で日本軍というものが判る訳ではありません。 しかし、本書に出てくる日本陸軍の姿は、乏しいリソースをやりくりしながら、戦訓や先進的な欧米の施策や研究成果といったものを参考にして施策を実施していきます。 これは、しばしば侮蔑的に語られる「精神力に頼った馬鹿馬鹿しい日本軍」というイメージとはまた異なるものです。 要塞攻略戦では、陣地に近接して高い角度から爆薬を落とす大砲-迫撃砲が発想され、戦場で間に合わせの材料から作り上げた木製大砲がそこそこの成果を上げました。 そこで戦後、きちんとした鉄製の大砲を、きちんとした工場で作ってみようとしたところ、安全性を確保できずに開発作業を放棄してしまったというエピソードも、当時の日本の技術水準と、応急対策と恒久対策で求められるクオリティの違いをかんがえさせられて興味深いですね。 ちなみに、この開発放棄のすぐ後に欧州では第一次世界大戦が発生し、あっという間にこの手の大砲の完成形(ストークス・モーター)を開発・量産してしまうのでした。 さて、当時は金属加工にしても科学にしても、日進月歩の時期で、それを受けて武器の性能もハイペースで性能が向上していました。 日露戦争では、兵士は平地で身を晒さず、地面に穴を掘った陣地-塹壕にこもって戦うようになりました。 この変化は砲兵・歩兵の関係を変えていきました。 日清戦争や普仏戦争までは兵士が陣地に隠れていなかったので、弾を沢山戦場に撃ちこめば、それだけで勝利をつかむことが出来たのです。 ところが、陣地にこもった兵隊を敗走させられるのは、歩兵の突撃だけ。歩兵は、自分たちに「陣地を占領できる」という、他の兵科には無い新しい価値を見出しました。 さらに、歩兵が陣地や物陰を利用して活動する戦術を確立し、長射程のライフル銃を装備するようになったこの時期、砲兵の価値は、歩兵に比べて相対的に減少してしまいました。 日本軍歩兵が、「軍の主兵はここにあり。最後の決は我が任務。騎兵砲兵協同せよ」 と歌うようになったのは、日露戦争後のこと。 日本軍が歩兵の突撃を重視した根拠の一つとして、この数字に裏打ちされた実例があるのではないかという考察は興味深かったです。 この本全体として感じたのは、著者が戦争を論じるにあたって、評論家や小説家よりもとても慎重に筆を進めていることです。 区々たる例を取り上げて、早急に結論を出すことをしない。 日本軍はあれだ、これだと簡単に結論づけるのは評論家の仕事で、実務を担うプロは推測でものを言わないのかなと思いました。
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