電球交換士の憂鬱 の商品レビュー
吉田篤弘の描く世界はいつも嘘の世界。それを承知で読む。しかし承知の筈の自分はいつの間にか何処かに姿を眩まし、最后の頁で妙に物語に嵌まり込んでしまった自分を発見する。そこには急に止まったメリーゴーランドの木馬の上に跨がったままで途方に暮れた顔がある。 寂れた百貨店の屋上に遊技場が...
吉田篤弘の描く世界はいつも嘘の世界。それを承知で読む。しかし承知の筈の自分はいつの間にか何処かに姿を眩まし、最后の頁で妙に物語に嵌まり込んでしまった自分を発見する。そこには急に止まったメリーゴーランドの木馬の上に跨がったままで途方に暮れた顔がある。 寂れた百貨店の屋上に遊技場が存在したのは何時の頃だっただろう。百貨店の屋上に象がいた記憶はさすがに持たないけれど、狭い空間の中に幾らでも見飽きないまばゆい遊具が並んでいた風景の心象はある。大した数の遊具ではなかった筈なのにそれらが無限とも思えたのは、自分の身体の大きさとの比較の問題だけでなく、遊ぶことが許された機会が貴重だったせいでもあるだろう。昔の子供にとって外で走り回るのが遊ぶという意味だった。今となっては、その時代が代え難く大切なもののように思えるが、全てが黄昏めいた記憶の着色を帯びてしまった故の感傷でもあるのは間違いない。たとえそうだったとしても、失ってしまったものや思い出すこともなかったもの、それらに附随する細々とした記憶が次々とよみがえる。吉田篤弘の小説は、読むものの意識を過去に向かわせる。 熱心な吉田篤弘の読者というわけではない。それでも新作が発表されると気になる。必ずしも手に取る訳でもない。しかし必ず確認してしまう。御注進、御注進、と心の中でつぶやきながら。この人には以前すっかり騙されたことがある。存在しないものを存在するかのように描くのがこの人の得意とするところだから。例えば吉田音の小説など。用心しなくてはならない。そう思いながら読み始めるのに、いつの間にかやられてしまう。信じ込むわけではないけれど、何処か懐かしい場所に連れ去られたような気になって、はっとさせられる。 ところで、美術館の電球を交換をする話は何処かで読んだことがあると、かすかな記憶がしつこく主張する。電球だけに「電氣ホテル」だったか、美術館なら「モナ・リザの背中」だったかと本の山から引っ張り出して頁をめくるけれど見つからない。ブクログの過去のレビューから吉田篤弘を検索すると、岸本佐知子編集の「変愛小説集 日本作家編」が網に掛かる。そして「梯子の上から世界は何度だって生まれ変わる」というタイトルに行き当たる。そうか、ここに居たのか。急いで本棚に向かい目指す本を取り出し頁を繰る。なるほど、なるほど、この扉がこうなってあのヤブがそうなるのか。ひょっとして玉子サンドがこの絵になるってことなのか。またまた吉田篤弘ワールドに絡め捕られている自分がいる。
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電球の交換を仕事にする主人公が、なじみのバーや仕事で出会う人たちと交流したり、ちょっとした謎を解いたり、失われるものを思ったりする話。 ちゃん作られた作品であるように感じるが、面白いわけでもなし。
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+++ 世界でただひとり、彼にだけ与えられた肩書き「電球交換士」。こと切れたランプを再生するのが彼の仕事だ。人々の未来を明るく灯すはずなのに、なぜか、やっかいごとに巻き込まれる―。謎と愉快が絶妙にブレンドされた魅惑の連作集。 +++ 電球交換士の十文字扉の物語。かかりつけのやぶ...
+++ 世界でただひとり、彼にだけ与えられた肩書き「電球交換士」。こと切れたランプを再生するのが彼の仕事だ。人々の未来を明るく灯すはずなのに、なぜか、やっかいごとに巻き込まれる―。謎と愉快が絶妙にブレンドされた魅惑の連作集。 +++ 電球交換士の十文字扉の物語。かかりつけのやぶ医者(本人曰く)に、不死身であると宣告されて以来、「どうせ」死なないのだから、という諦めと虚しさのような気分に浸されているような気がしている。電球を交換してほしいという依頼があれば、あちこちに出向いて「十文字電球」に交換するが、その電球にも実は事情があって、いずれこのままではいけないという思いを抱えているのである。行きつけのバーに集う常連客達とのやり取りや、それぞれの事情に考えさせられることもあり、滅びていくものと続いていくもの、そして新しく作られるもののことに思いを馳せたりもする。不死身の我が身の来し方行く末を考えるのも、途方もない心地である。いくつもの軸を持って流れている時間というもののことを考えさせられる一冊でもあるような気がする。
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どこかの家のカーテンごしに見るオレンジ色の灯りのあったかさを想像するランプ。 時代と共に消えていくいろんなもの。 限りあるものだからこそとうとい。
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