いのちを“つくって"もいいですか? の商品レビュー
宗教学、死生学を研究分野とする島薗進 氏の著。 バイオテクノロジーによって人間の遺伝子や生殖に介入する行為、ES細胞などの「胚」を用いた科学的技術の発達について、「はじまりの段階のいのちを壊す」というキリスト教的な側面と東洋(日本)の「つながりのなかの命」を対比させて論じた本。...
宗教学、死生学を研究分野とする島薗進 氏の著。 バイオテクノロジーによって人間の遺伝子や生殖に介入する行為、ES細胞などの「胚」を用いた科学的技術の発達について、「はじまりの段階のいのちを壊す」というキリスト教的な側面と東洋(日本)の「つながりのなかの命」を対比させて論じた本。 (イラスト、題名などから)生命倫理を中高生向けに発信する本のように思っていましたが、中身はガッツリ大人向け。大学生以降を想定して書かれているのかなと感じました。 序盤~中盤まではバイオテクノロジーが進んだ未来にはどんなことがありうるだろう? という話で、中盤以降はキリスト教的な視野から見た中絶・人工妊娠中絶について、終盤では欧米と日本を比較しながらそれぞれの違いと特徴についてまとめられています。 この本の主題には大きな2つの問いがあって、 Q:ES細胞やiPS細胞などの研究・利用は、どこまで許容できるのか Q:エンハンスメントがもたらす弊害とは何なのか、そしてそれにどう歯止めをかけるべきなのか というものなのですが、個人的に今まで欧米諸国の判断や医療的指針について「どうしてそう判断したんだろう?」と思っていた疑問がぱっと明らかにされる思いがしました。 キリスト教圏では隣人愛というものがあり、日本は基本的には神道もしくは仏教が主体の無宗教の人が多い国で、その「隣人愛」がキーワードだったのだなとわかったときには目から鱗でした(単なる勉強不足ですが)。 また、私も読んだことがあるのですが「楢山節考」についての記載もあり、日本の死生観というものを改めてしっかりと見直したような気持ちになりました。 生命倫理そのものを深く穿つという本ではないようですが、東西でまず考え方の背景がまったく違うと示していること、そしてどこがどう違うかを具体的に示しているという点で、お勧めできる本だと思います。
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医療技術の発展に伴い課題として浮き彫りになってきた「治療を越えた医療=エンハンスメント」をベースに、いのちの捉え方を私たちに問う本作。 医療技術が飛躍的に進化している昨今。治療できなかった病気が治療でき、救えなかった命が救えるケースが増えてきました。ニュースでそれらを目にする度...
医療技術の発展に伴い課題として浮き彫りになってきた「治療を越えた医療=エンハンスメント」をベースに、いのちの捉え方を私たちに問う本作。 医療技術が飛躍的に進化している昨今。治療できなかった病気が治療でき、救えなかった命が救えるケースが増えてきました。ニュースでそれらを目にする度に単純に人間にとって「良いもの」が生まれた、と思っていました。本書では医療技術が人間にとって「より良く」利用された時、つまり治療を越えて「増強」として利用された時に「何が変わり、何が問題となるか」という課題や問題点が、さまざまな側面から投げかけています。 世の中には賛否両論ある技術がすでに実用化されているのも現状です。個人単位で見ると気分が落ち込んだ時に処方された薬で「健康な精神」を取り戻したり、出生前診断や堕胎手術などで実質的に「命の選択」が可能になりました。利用するしないは個々で判断するものですが、やはり怖いと感じるのはそれらがエスカレートして利用されることです。 その例として本書では1932年刊行のディストピア小説『すばらしい新世界』(オルダス・ハクスリー著)が挙げられています。医療技術・最新科学が「人間管理」として使用される恐ろしさの果てを描いた本作は、個としての人生や人間らしい生き方について読み手や社会に一石を投じる内容になっています。もちろん現代には無い技術も多々描かれていますが、昨今の飛躍的な技術進化を考えると、そう遠くない未来に起こり得るのではないかと背筋が冷たくなるものがあります。 「いのち」の扱いは本当に難しく、良い悪いの一言で語られるものでもありません。だからこそ個人では自身の狭い倫理観に縛られずに様々な意見を耳にすること。学術的には目先の成果に囚われず国の垣根を越えて、広い視点で意見が飛び交う必要のある課題なのだと思います。 著者の提言する「個のいのち」から「つながりのなかにあるいのち」。他者から学び、他者との関わりのなかで喜怒哀楽を感じること。さらに経験から社会性や倫理観を育み、予期せぬ事態も受け入れ新たな喜びを見出すこと。これらは確かに他者との関わり・交流があってこそ為し得る経験のように思います。 生命倫理という分野は読むのも考えるのも難しいと思っていましたが、平易な言葉で身近な問題として捉えらえることのできる興味深い内容でした。
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☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆ ttp://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB20541365
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死生観を知りたくて選んだ本の中の一つ。 あと、オルダス・ハクスリーの「すばらしい新世界」が取り上げられていたので読んでみた。 前半はいまの再生医療の技術について、科学を通して知る。ES細胞とかiPS細胞とか、ニュースで聞くくらいしかなかったけど、なるほどそういう仕組みだったのか...
死生観を知りたくて選んだ本の中の一つ。 あと、オルダス・ハクスリーの「すばらしい新世界」が取り上げられていたので読んでみた。 前半はいまの再生医療の技術について、科学を通して知る。ES細胞とかiPS細胞とか、ニュースで聞くくらいしかなかったけど、なるほどそういう仕組みだったのか、だからノーベル賞なのかと知った。 それが今後、生きている人間に対してどんな影響を与えるんだろうかということも書かれている。エンハンスメントの話。 もともと治療をするための医療が、より多幸になるためとして発達しているんじゃないか、と。 身体能力だけでなく、心も変えることができる…。いわれてみれば、ということが何か所かあった。 後半は宗教観、欧米と日本との違い、日本の中でも価値観の違いなどにも触れる。 特に「これから人になりうる命」についてはすごく丁寧に取り扱っていた。 ES細胞になる余剰胚も、授かりものの命も、すでに社会の中に取り込まれているのだなと感じた。 自分の意識が生まれる前から、自分を取り巻く社会ができているのだと。 生まれる前だけじゃなくて、死んでからもそうだと。脳死のトピックでそう感じた。 「個人が個人として存在するためには、他者や集団、自然や環境との関係が、そして世代を超えた過去や未来とのつながりが必要です」224p
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著者は、1997年にクローン羊のドリーが誕生したことを受けて、当時の橋本首相が設けた生命倫理委員会に参加し、それ以降生命倫理の問題について第一線で取り組んできた、現・上智大学神学部教授である。本書は、NHKテレビテキスト『きょうの健康』に2013~2015年に連載された「いのちと...
著者は、1997年にクローン羊のドリーが誕生したことを受けて、当時の橋本首相が設けた生命倫理委員会に参加し、それ以降生命倫理の問題について第一線で取り組んできた、現・上智大学神学部教授である。本書は、NHKテレビテキスト『きょうの健康』に2013~2015年に連載された「いのちとモノ」をもとに加筆・再構成されたもの。 本書は、「現代のバイオテクノロジーや最先端の医療が目指しているものが、ほんとうに私たち人間の幸せをもたらすのだろうか」という問いをテーマにしており、著者は次のように考察を進めていく。 ◆現代のバイオテクノロジーと医療は、私たちの欲望を限りなく満たす方向、即ち「幸福に満ちたいのち」を求める方向に進んで行こうとしているのではないか? ◆再生医療の進歩は「からだを取り換える」ことを可能にし、遺伝子工学の進歩は「遺伝子から人をつくり変える」ことを可能にするが、それらは、医療の本来の目的である「治療」を越えた「エンハンスメント(増進的介入)」を促進することになりかねない。身体を「改造」すれば幸せになるのだろうか? ◆バイオテクノロジーの進歩は、様々な出生前診断を可能にし、いのちは「授かるもの」から「選び取るもの」に変わろうとしている。更に技術が進めば、親が遺伝子レベルで好ましいと思う子どもを意識的につくる、即ち「デザイナー・ベビー」をつくることにつながる。そのようないのちの選別を続けていけば、将来的におかしな事態が起こってくるのではないだろうか? ◆ES細胞やiPS細胞のような万能細胞の発見は、人間と動物のキメラをつくる(例えば、豚の体の中で人間の内臓をつくる)ことを可能とするが、これは一体どこまでが人間でどこまでが動物なのか、種の境界を揺るがせかねない。また、万能細胞から「生殖細胞」がつくられれば、万能細胞という人工的な細胞から「いのち」そのものを生み出すことが可能となる。 ◆欧米では、ES細胞をつくる際に「いのちの始まりを壊す」(ES細胞は受精卵を壊してつくる)という観点で倫理問題が議論され、また、中絶が一般に認められていないが、いずれもキリスト教の思想に基づくものである。また、「脳死」が比較的疑問なく受け入れられているが、それは、心と身体(精神と物質)を二分する二元論的思考、近代文明を築いてきた科学に対する強い信頼感、個人の主体性・独立性を強調する考え方などを背景としており、いのちを「個としてのいのち」と捉える傾向が強い。 ◆日本では、かつて堕胎や間引きにより、共同体が一つのいのちとして生き延びていくために人口の調整が行われていた時代があり、また、「脳死」を受け入れ難いと感じる人の割合が高いが、それらはいずれも、いのちを「つながりのなかのいのち」と捉えることを反映している。 ◆生命倫理に関する考え方は、文化的・歴史的背景の違いにより異なるが、バイオテクノロジーの進歩が行き着く、「そこから何ができてしまうのか」という究極の問題は「人間の未来のいのちの形」を問う問題であり、文化や歴史の相違を越えてしっかり議論を深める必要がある。 今考えるべき生命倫理についての全てがわかりやすく説明されており、若い世代を含めて全世代必読の一冊と思う。 (2016年5月了)
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バイオテクノロジーがもたらす治療を超えた医療=エンハンスメントの課題の哲学的思考。 哲学的故か堂々巡り感有り。
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