吸血鬼 の商品レビュー
十九世紀の、ポーランドの小さな村・ジェキの役人として赴任してきたゲスラー。かつて詩人として名を博したクワルスキが領主として治めるその村で次々に起こる不審な死。村人たちの不安を取り除くためにゲスラーが提案する慣習は、ただの迷信なのかそれとも……? 陰鬱な雰囲気の小説です。 タイトル...
十九世紀の、ポーランドの小さな村・ジェキの役人として赴任してきたゲスラー。かつて詩人として名を博したクワルスキが領主として治めるその村で次々に起こる不審な死。村人たちの不安を取り除くためにゲスラーが提案する慣習は、ただの迷信なのかそれとも……? 陰鬱な雰囲気の小説です。 タイトルがあからさまにこれなので、ああそういうことなの、と思って読んだけれど。実はそうじゃないのかも。続く不審死といい怪しい影といい、いかに「いそう」な雰囲気はこれでもかというほどに漂っているのですが。この時代のこのような村では、これくらいの死は珍しいものではなかったのかもしれないし。因習や迷信に囚われていることもありがちな気がして。「吸血鬼」というのは一種のたとえでしかなく、だけど怪物である「吸血鬼」と同様に恐れられている存在でもあったのでしょうか。いや、むしろそれよりも切実に恐ろしいのかもしれません。 ホラーだと思い込んで読んだら期待外れですが。ホラー好きにもこの雰囲気はかなり好みでした。暗くてじめじめした印象だけれど、美しさも充分に感じられます。
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19世紀ポーランドの話。美しい田舎町に新任役人として赴任してきたヘルマン・ゲスラーとその妻を取り巻く周囲の物語。美しい田舎風景、村人の悲惨な生活、田舎ならではの風変わりな風習、それらを良い方向へ導こうとするゲスラーと、かつて詩人であった領主との隔たり。独立蜂起に揺れる村、生活の格...
19世紀ポーランドの話。美しい田舎町に新任役人として赴任してきたヘルマン・ゲスラーとその妻を取り巻く周囲の物語。美しい田舎風景、村人の悲惨な生活、田舎ならではの風変わりな風習、それらを良い方向へ導こうとするゲスラーと、かつて詩人であった領主との隔たり。独立蜂起に揺れる村、生活の格差から生まれる領主と農民の思想の違い、様々な人の思惑が混沌となり物語は進んでいく。「吸血鬼」と題されているがホラーではない。実際の吸血鬼も出てこない。人間の持つ闇を示唆しているのであろうか?佐藤亜紀氏の小説は物語の背景や登場人物の紹介などを敢えて書き込まないのに読み進めるうちに自然とその物語の全体像の中に連れ込まれる。この小説も面白かった。
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タイトルは吸血鬼という私の好物、カバーもダークでトワイライトシリーズのような雰囲気だったので、すっかり耽美系の吸血鬼ものかと期待して読み始めた。舞台は1846年あたりの現ポーランド、当時はオーストラリア帝国統治下のガリツィア。地主のクワルスキ(Kowalskiというベタなポーラン...
タイトルは吸血鬼という私の好物、カバーもダークでトワイライトシリーズのような雰囲気だったので、すっかり耽美系の吸血鬼ものかと期待して読み始めた。舞台は1846年あたりの現ポーランド、当時はオーストラリア帝国統治下のガリツィア。地主のクワルスキ(Kowalskiというベタなポーランド名、そういえばうちの近所のポーランド系社長のスーパーマーケットがコワルスキーって名前だった)とその土地に送られてきた新任の帝国役人のヘルマン・ゲスラー。ヘルマン・ゲスラーというとウィリアム・テルに出てくる有名なハプスブルク家に仕えたオーストリア人悪代官(架空の人物)。こいつのせいでスイスの独立運動が盛り上がって、結局独立するという筋。この名前が出てきた時点でちょっと出来過ぎな筋が心に浮かんでしまう。ともかく、最初に地元の民マチェクの父親が出てきて語る場面(p41)で、父親が素晴らしい新潟弁を話すので、慌てて作者のプロフィールを調べてみたら、なんと栃尾出身。そこから時折語られる地元民会話シーンがイントネーションも結構正しく脳内再生していると自負してますが(ほんまか)。非常に興味深いストーリーですが、読めども読めども所謂吸血鬼はでてこない。で、後半p205、バルトキエヴィッツ曰く「姿形は泉の精」だが、体内に異物を飼う「下等な動物的器官を備え」、「人間は寄生虫のようにその胎に取り付」いて、10ヶ月ほど「ちゅうちゅうその体液を吸って肥え太る。」と、人間を血を吸う蚤に例えるので、これがタイトルなのだなと、そうするとカバーは妊婦に見えてくる。もちろんウピールの伝説を信じている人々によってイベントが起きはしますが、実際に人外のものが出てくることはない。私としてはゴシックで耽美なアンライスや菊池系の吸血鬼の話が読みたかったんだが、真面目に面白い小説ではありました。所謂モンスターの出てくる伝奇小説よりも、こういう人間の本性がダダ漏れになるタイプの小説のほうが背筋が凍り、後味悪いです。
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佐藤亜紀先生の著作は以前「ミノタウロス」を手に取り、難解すぎて70ページ程しか読めなかったという経験があるのですが、あらすじを読んで興味を持ったので再挑戦も兼ねてこちらの作品を読みました。 佐藤先生の作品はどれも題材に対する知識と教養が備わっていないと楽しむのが難しく、これも多分...
佐藤亜紀先生の著作は以前「ミノタウロス」を手に取り、難解すぎて70ページ程しか読めなかったという経験があるのですが、あらすじを読んで興味を持ったので再挑戦も兼ねてこちらの作品を読みました。 佐藤先生の作品はどれも題材に対する知識と教養が備わっていないと楽しむのが難しく、これも多分その類の内容だと思います。 なにせ世界史はちんぷんかんぷんですので、あまり込み入った感想は書けませんが、私のような乏しい知識でも大変面白かったです。 セリフが「」で閉じられていなかったり、場面転換の区切りをあえて仕切っていないので最初のうちはなかなか内容が頭に入ってこなくて、「もしかしてずっとこの調子で最後まで続くのだろうか」と思いながら読んでいましたが、中盤から終盤に掛けてのドラマティックな展開は思わず主人公に感情移入してしまうほどでした。それにとてもテンポの良い文体なので読んでいて引っかかる部分がなく、すらすらと読めて、帯の皆川先生の評文になるほどそういうことかと合点が行きました。 全部で300ページにも満たない物語ですが、濃密な19世紀の東欧の空気が感じられるようで臨場感にあふれ、まるで疑似体験をしているかのようにページを捲る手が止まりませんでした。読み終わってみればシンプルに「面白い」といえる作品です。
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●ふむ、ゴシックホラーかな? いや、政治の話か。……やっぱりホラーかな?? 定番のストーリーでは、こんなキャラの結末はアレな感じだけどどうかなあ。 …などと思いながら読みました。面白かったです。予想なら当たりました。様式美? ●舞台は19世紀のポーランド。 とある辺鄙な村に配属されたオーストリアの官吏ゲスラーとその若妻エルザは、かつて詩壇の寵児ともてはやされた文人にして当地では絶大な権力を持つ大地主のクワルスキと相対しながらも、暗鬱な因習に冒された村民と心を通わせ、賢い若者のマチェクや女中のヨラ達と共に土地の問題を解決しようと粉骨砕身するが、謎の死が冬を迎えた村を襲う……!←まあそんなにうそじゃない。 ●ポチョムキンで戦艦を思い出したり、クラクフ蜂起とか言う単語が脳裏をよぎったりしたので、ひっっっさしぶりに世界史用語集などを取り出してみましたが特には役には立ちませんでしたとさ。 どなたか書いてらっしゃいましたが、あの訛りはやはり(ご出身地の)新潟弁なんですねー。西日本人にゃあんなん文脈からでないと直に意味が取れんわーい。 ●実写化エルザはアリシア・ヴィキャンデルでいいです。そこはかとなく薄幸そうだから。ゲスラーはケヴィン・スペイシーとか? 違うか。中年男性で小太りで説得力のあるルックスの俳優求む。 しかし若クワルスキは天下のイケメンピアニストことリスト様でまちがいありますまい! だめですかね。ね?
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科学、法、宗教、利権、迷信、因習、文学、才能。 あなたは何を信じるのか、という問いを突き付けられている気がした。 それぞれがそれぞれの「正義」を掲げ、それぞれの信念に従って何とか生きて行こうとしている。しかし物語の中に銃が取り出され、そしてそれはどうしようもなく撃たれてしまう。...
科学、法、宗教、利権、迷信、因習、文学、才能。 あなたは何を信じるのか、という問いを突き付けられている気がした。 それぞれがそれぞれの「正義」を掲げ、それぞれの信念に従って何とか生きて行こうとしている。しかし物語の中に銃が取り出され、そしてそれはどうしようもなく撃たれてしまう。 まるで、抗い難い流れに飲まれてしまうように。もしくはそこに生きる人々の正義や信念を、嘲笑うように。 宗教を持たず、科学と法を拠所にする役人と、 文学に酔い痴れ、宗教を笠に着て利権を守ろうとする領主と、 迷信と因習に囚われ、呪いによって難を逃れようとする農民と、 その三者の対比が鮮明で、暗示的であり、 一方、死体の首を斬る呪いを行う薄気味の悪い流れ者と、 心根の知れない空恐ろしい村医者という、彼らの役割も意図的であると思った。 「この時代に、この国で書かれた」ということが極めて重要な意味を持つ文学作品が、世界にはいくつかあると思う。 この小説は、間違いなくその一つだろう。
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一介の小役人が変貌していく様が非常に面白い。 この時代、地方の枯れた小村の闇。闇。 見え隠れする異形は、人の闇にも巣食う。 エルザは本当に乙女だった……血にまみれるにふさわしい。
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主人公はヘルマン・ゲスラー。いえ、別人です(友人のオカモトアヤコさんが、自己紹介で「ゴルフはしません」って言うと、最近の若者にはキョトンとされると嘆いていた)。舞台は19世紀半ばのガリチアはルテニアですから。因習が抜けない食うや食わずの寒村に派遣された小役人の奮闘記。タイトルに吸血鬼となければ、「アレ」はキングの「it」と以上に見えない。むしろ、ヘミングウェイの「白い象のような山並み」だ。上手いもんだ。
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ディテールの細やかさと完成された世界観の描写は相変わらず素晴らしい。ただ、タイトルから期待した内容とは違っていたため、最後まで話にさほどの興味が持てなかった。すいません。 それにしても、コテコテの新潟弁のクセがすごい(笑)。どれだけの人があれを解することができたのだろう。
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佐藤亜紀「吸血鬼」 http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062199186 … 読んだ。19世紀、ポーランド、村、領主という舞台装置でてっきり直球にオカルトか伝承発祥の話かと思っていたら全然違った、おもしろかった!無学に...
佐藤亜紀「吸血鬼」 http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062199186 … 読んだ。19世紀、ポーランド、村、領主という舞台装置でてっきり直球にオカルトか伝承発祥の話かと思っていたら全然違った、おもしろかった!無学による心理的恐怖が忌まわしい民俗を根付かせる。吸血鬼とは誰か?(つづく パニック下で血吸い妖怪を見てしまうのも人間、妊娠中も出生後も体内外で妊婦の栄養を吸い成長するのも人間、労働力と財を教育機会を搾取し生活格差を作るのも人間。富の再配分、ノブリスオブリーシュ、教育と啓蒙。W主人公の1人が詩人なのもおもしろい。話が肖像画から入るのも雰囲気ある(つづく 精神的な世界と物質的な世界とを対比させて、純粋で精神性の高いものは崇高で永く生き続けることができる、というかなり直接的な文を佐藤亜紀の本で読むのが意外だった。何重にも意味を包含させていて、かなりおもしろい本。タイトルと表紙で読書好きたちから敬遠されそうなのが勿体ないなあ(おわり
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