ノボさん(下巻) の商品レビュー
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下巻は明治25年元旦より物語が始まる。 明治24年の年末試験には、漱石の援助などもあり追試験でどうにか及第したが、翌25年の年末試験には落第してしまう。子規はそれを機に大学を退学。母・八重と妹・律を迎え3人で暮らし始まる。根岸に居を構え寝たきりの生活となる子規の身の回りを世話は母と妹が行う。 結核性脊椎炎が進行し、子規の背中には、膿の出る穴がいくつもできる。鎮痛剤で痛みを紛らわせながら、適切な薬がないこの時代の「食べて栄養をつける」しかない。 闘病の中、自分の軌跡を残すべく、「俳書年表」の制作に取りかかった子規のは、松尾芭蕉を原点とした哲学的でその技巧が際立つ「芭蕉風俳句」に、自然美をそのまま俳句として詠むという「写実」俳句を提唱、実践する。まさに、19世紀ヨーロッパの自然主義のモネ、ゴッホの印象派の画家たちがたどった近代アートの道を俳句の世界にその流れを引き込んだのである。 子規がていするこの「写実」的俳句のおこりは、私の中では、旅行好きであった子規が京都、奈良など各地を訪れ、自分が感動した状況を写真に収めるが如く、自分の心情をそのままに描こうとした結果であるように思えた。 カリエス(脊椎炎)を患いながらも、子規は自分の感じる感性と客観性をもって、文字に起こしていく。 それは、俳句だけでなく、『仰臥漫録』『病床六尺』も然りである。世間に残すことが目的で客観的に闘病記を記され、「写実」性を広めろうとする意思と決意が感じられる。 病床から見た庭の景色、闘病の苦しみを言葉に残し続ける。 献身的な看護、また時に子規の発する言葉を彼に代わって綴る妹・律、子規の意思を受け継ごうと交代で見舞いをする弟子の河東碧梧桐、高浜虚子、伊藤佐千夫、長塚節たち。彼らは、子規の命が尽きる最後まで側に居て、子規から後世に伝えるべき俳句を学んだのであろう。 明治35年9月19日、己の意思を突き進んでいく自分勝手な子規の生涯が家族と弟子たちに看取られる中で終わる。 最後は、自分勝手極まりないと感じることも多々あったが、それでも常に子規の周りには人がいる。文学という分野でだけでなく、人としても周りの人たちを魅了し続けできたのであろう。 「さあ、もういっぺん痛いと言うておみ」と、亡くなった子規に言葉をかける母親の気持ちがわかる。「辛いだろう、これからは我慢しなくてもいいんだよ」ではない。母の強さに涙してしまう。 「糸瓜の咲て痰のつまりし仏かな 」、「をとゝひのへちまも水も取らざりき」、「痰一斗糸瓜の水も間にあはず」の三篇の辞世の句より命日9月19日は、『糸瓜忌』と呼ばれているようだ。 病の中でもがく子規の記録と、有名な記録が知ることができる一方で、闘病の辛さが前面にあり、読んでいて辛くなる作品であった。
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病と知りながら、むしろ病だからこそ、時間を惜しむように活動するノボさんと、只々彼を支えるために献身的に尽くす家族や知人達。 病の進行によって行動が制限され、心に影がさし、神経をも病んでいくのに、誰もが彼から去るどころか、むしろ共に病いを背負うために彼のもとに集まってくる。 子...
病と知りながら、むしろ病だからこそ、時間を惜しむように活動するノボさんと、只々彼を支えるために献身的に尽くす家族や知人達。 病の進行によって行動が制限され、心に影がさし、神経をも病んでいくのに、誰もが彼から去るどころか、むしろ共に病いを背負うために彼のもとに集まってくる。 子規の人生もさることながら、世界が感染症の危機に晒されている今だからこそ、その支援者に思いが向くのかもしれない。 優しく、重く、でも清々しく読み終えることができた。
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小説現代で連載されていた時、途中から読み出したけれど、毎月、楽しみでした。 単行本が出たら、最初から読もうと思っていたのに忘れ、文庫本に気づいて、やっと、買えました。 文章がいいんですよ。易しくて優しくて。 それに青春って感じなんですよ。野球が好きで、大食いでいろんなことに夢中に...
小説現代で連載されていた時、途中から読み出したけれど、毎月、楽しみでした。 単行本が出たら、最初から読もうと思っていたのに忘れ、文庫本に気づいて、やっと、買えました。 文章がいいんですよ。易しくて優しくて。 それに青春って感じなんですよ。野球が好きで、大食いでいろんなことに夢中になって。人に好かれて。 病床時代が長くても読後感には青空が広がっています。
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新型コロナ肺炎の影響で本を読む時間が増えた。 前半と後半で全く調子が違って、やはり元気でベースボールばっかりやってた頃の快活で誰でも受け入れるノボさんがすごく魅力的だ。 子規は近代文学の巨人みたいだけど、一度会ったらみんなが虜になってしまうという人柄とはどんなのだろう。 生きてい...
新型コロナ肺炎の影響で本を読む時間が増えた。 前半と後半で全く調子が違って、やはり元気でベースボールばっかりやってた頃の快活で誰でも受け入れるノボさんがすごく魅力的だ。 子規は近代文学の巨人みたいだけど、一度会ったらみんなが虜になってしまうという人柄とはどんなのだろう。 生きているノボさんにすごく会いたい。 その時代のいろんな人が出てくるから、次は坂上雲を読んでみよう。
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2019.06.子規は帝国大学を退学し「日本」新聞社に入社する.そして,松山から母の八重と妹の律を東京に呼ぶ.日清戦争が始まり,記者として清国に行き森鴎外と出会う.帰りの船で大喀血して神戸の病院に入院する.漱石は子規の故郷の松山に教師として赴任し,子規は退院すると松山に戻り漱石との50日間の同居生活をする.その後に子規は東京に戻る.結核が進行するなかで子規はホトトギスを発行し評判となる.漱石は熊本に移った後,ロンドンへ留学する.子規は寝たきりになりながらも病床六尺など執筆活動を続ける.しかし,ついに36歳の若さで亡くなり,訃報がロンドンの漱石へと届く.色々と明治時代の文学の流れが理解できた.
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