尼崎事件 支配・服従の心理分析 の商品レビュー
★★★★★ フルプライスで買いたい 本書は尼崎大量殺人事件の容疑者の1人の当時の心理的状況を、実際の出来事を踏まえながら考えていく、情状鑑定の報告書のようなものである。被告人は凶悪でも不良でもなく、少しだらしないが楽観的で、仲間想いでおとなしい青年だった。そんな彼が美代子によっ...
★★★★★ フルプライスで買いたい 本書は尼崎大量殺人事件の容疑者の1人の当時の心理的状況を、実際の出来事を踏まえながら考えていく、情状鑑定の報告書のようなものである。被告人は凶悪でも不良でもなく、少しだらしないが楽観的で、仲間想いでおとなしい青年だった。そんな彼が美代子によってその性質を利用され、心を失っていく様を読むのは辛く、非常に胸糞の悪いものだったので、途中から努めて感情移入しないようにと心がけていた。 ロボット症という言葉は本書で初めて目にしたが、確かに収容所や原爆の体験談などで見られる症状と酷似している。
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この事件の裁判で,被害者であり加害者でもあったメンバーの鑑定をした心理学者たちによる分析をまとめた本。ひたすら恐ろしい…。 前提知識として,服従に関するミルグラムの看守役が囚人役を虐待したため急遽中止になったという有名なジンバルドーの監獄実験(1971)についても概要を丁寧に紹介...
この事件の裁判で,被害者であり加害者でもあったメンバーの鑑定をした心理学者たちによる分析をまとめた本。ひたすら恐ろしい…。 前提知識として,服従に関するミルグラムの看守役が囚人役を虐待したため急遽中止になったという有名なジンバルドーの監獄実験(1971)についても概要を丁寧に紹介している。囚人が暴動を起こし,看守が交代前の処遇がぬるかったと激怒,首謀者に制裁を加えたり優遇房を設置したり,囚人間の相互不信を煽ったとか,排泄管理とか,そこまで事態が急展開してたとは知らなかった。 これらの実験から分かるように,人間を道具化し奴隷化することは,本当にあっけないほど容易。設定された「環境の力」が,アイヒマンを作り,21世紀の日本においてさえ,尼崎事件のような支配者と奴隷の関係を作る。 支配の手段として用いられるのは,人格を認めない処遇,生理的欲求の制限,相互不信の醸成,性的行為の強要などで,支配者は被支配者の尊厳を破壊し,孤立させ,無力感を植え付けていく。被支配側は「学習」によって抵抗の気力を失い,支配者の機嫌を窺うようになり,現状の「秩序」の乱れや第三者の介入を嫌悪するようになるに至って服従は完成する。しかも,格別の入れ知恵がなくても権力関係に基づいて「自発的にそれが起こる」というのだから戦慄ものである。これは人間の本性なんだろうか…。 実験によれば,暴力抜きでも数日でこうなるのだから,そこに暴力が加わったらどうなるか,長期にわたり終わりが見えない場合はどうなるかを考えるとほとんど絶望的だ。その極端な場合が北九州や尼崎で何人も犠牲になった事件であるのだし,表沙汰にならなくてもDVという形で各地に遍在しているのだから空恐ろしくなる。 ジンバルドー本人による監獄実験の詳細とその後に関する本も出てる。 権力構造の中である役割を与えられると,いとも簡単にその役割に人格が乗っ取られていく。暴力を排除した一時的な擬似権力構造であるにも関わらず,そうなるというのが凄い。 https://twitter.com/Polyhedrondiary/status/643426323197628416
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こうして角田美代子は、人間をロボット化させた! 『尼崎事件 支配・服従の心理分析』から見えた戦慄のメカニズム - HONZ URL=http://honz.jp/articles/-/42537
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