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分極化するアメリカとその起源 の商品レビュー

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2016/10/09

アメリカが保守とリベラルに分極化しているということはよく言われる。分極化とは、福祉、教育、税制などをめぐって保守とリベラルの間で妥協が成立しなくなっているという程度の意味である。 問題は、この分極化がいつ起き始めたのかということである。ある人は、冷戦終結で共産主義という共通の仮想...

アメリカが保守とリベラルに分極化しているということはよく言われる。分極化とは、福祉、教育、税制などをめぐって保守とリベラルの間で妥協が成立しなくなっているという程度の意味である。 問題は、この分極化がいつ起き始めたのかということである。ある人は、冷戦終結で共産主義という共通の仮想敵を失った1990年代とするし、ある人は保守派のヒーローであるロナルド・レーガン大統領が政権を担った1980年代とする。またある人は、1964年に大統領選共和党予備選に勝利したものの本選挙で民主党リンドン・ジョンソンに大敗したバリー・ゴールドウォーターの台頭とする。 しかし、本書ではその起源を共和党ドワイト・D・アイゼンハワー大統領が政権を担っていた1950年代とした。面白いのは、レーガンやゴールドウォーターが誰がどう見ても保守であり、1990年代は誰がどう見ても保守派の行動が激しかった時期であるのに対し、アイゼンハワーは穏健派であり、今からすれば保守とリベラルの間に妥協が成立していた時代だということである。本書の立場からすれば、レーガンやゴールドウォーター、1990年代は分極化の症状が現れたにすぎない。 さて、本書はその1950年代のアイゼンハワーの政策をめぐる共和党内の抗争を、アイゼンハワー&穏健派リチャードニクソン(1960年大統領選共和党候補)とゴールドウォーターの対立から描き出す。しかも、それを彼らの手紙から緻密に描きだしていくのである。その根気は本当に見事である。結局、アイゼンハワーがリベラルにも受け入れられる中道的な政策を展開していく一方で、ゴールドウォーターら共和党保守派が対抗運動を充実させていったのが1950年代であった。そしてそうした保守派の不満は、1960年大統領選挙におけるニクソンの敗北によってピークに達する。しかし、1964年にゴールドウォーターが大敗したことで、その運動すら潰えたのであった。 本書では、なぜ1964年以降も保守派が拡大していったのかはあまり明らかにされていない。その意味で本書が分極化の起源として問いに対する答えになっているのかは微妙なところではある。とはいえ、本書が明らかにしたように、穏健派の8年間がその後を考えれば決して理想化されるべきものではないことは、今後を考える上で極めて有用であろう。

Posted byブクログ