代議制民主主義 の商品レビュー
議会や議員に対する不信感が高まる今日、代議制民主主義を見つめ直す。 自由主義と民主主義のバランスを、それぞれの国の実情に合わせて多様な執政制度と選挙制度の中からそれらを組み合わせながら調整する、安定化装置としての代議制民主主義。
Posted by
比較政治学的な見地から代議制民主主義を再検討し、議会懐疑論への応答を図りつつ、代議制民主主義の持つ特性への認識を深めていく書であった。 代議制民主主義は、エリートの相互抑制を企図して制度化されたマディソン的自由主義的側面と、参政権拡大に伴って強まった民主主義的要素が結合したことに...
比較政治学的な見地から代議制民主主義を再検討し、議会懐疑論への応答を図りつつ、代議制民主主義の持つ特性への認識を深めていく書であった。 代議制民主主義は、エリートの相互抑制を企図して制度化されたマディソン的自由主義的側面と、参政権拡大に伴って強まった民主主義的要素が結合したことにより成り立っており、それが導く「委任と責任の連鎖」関係が連鎖する場合に機能するとしている。 以上のような整理とモデル化がわかりやすく、頷くところが多かった。特に、「代議制民主主義」を、君主権力を抑制するものとしての「議会」と、エリート的多元主義が導く「共和制」、そして民意表出を担う「民主主義」に分解していく視点はたいへん参考になり、民主主義それ自体への解像度がかなり上がった。 本書はその締めくくりにおいて、「自由主義的側面」と「民主主義的側面」の間で揺らいでいくことにより、政治目標に合わせた制度を形作り、そのタームに合わせた誘引効果を導く代議制民主主義の価値を語っていて、これについても頷くところである。完璧な政治などないのだから、制度的な柔軟性と民主的な正統性を保ちつつ、効率的な意思決定を行う代議制民主主義を、これからも考え続けていきたいものである。 なお、ひとつ本書の枠組みから外れる話をすると、代議制民主主義の価値を語るうえで、権威主義的政治体制との比較の視点がなかったことは少し残念である。もっとも、権威主義体制よりも代議制民主主義の方が政治体制において完成度が高いのは言うまでもないという話なのかもしれない。権威主義と民主主義のどちらがより好ましいかという議論は、そもそもの政治目標設定の時点で大きな断絶があるようにも思うため、ここで扱わなかったのはむしろ妥当かもしれない。
Posted by
政治が機能していないと言われて久しい。それが政治不信の原因とされ、選挙制度をはじめ様々な改革が行われてきた。だがそもそも政治が「機能」しているとはどのような事態を指すのか。そして改革は何を目指し、その効果をどう評価すべきなのか。本書はこうした問いに対し、比較政治制度論の近年の研究...
政治が機能していないと言われて久しい。それが政治不信の原因とされ、選挙制度をはじめ様々な改革が行われてきた。だがそもそも政治が「機能」しているとはどのような事態を指すのか。そして改革は何を目指し、その効果をどう評価すべきなのか。本書はこうした問いに対し、比較政治制度論の近年の研究成果を踏まえながら、各国の代議制民主主義がいかなる歴史的経緯を経て現在のかたちをとるに至ったかを、その基本的な理念に立ち帰って検証し、あるべき議論の筋道を示す。実証的政治学と規範的政治理論の野心的な統合の試みであり、久しぶりに歯応えのあるシャープで骨太の政治学に出会ったという気がする。 著者は代議制民主主義とは自由主義と民主主義という本来全く別の互いに矛盾する二つの政治理念の接合であり、一方が他方に対して強くなり過ぎないようバランスを取ることを目指す政治制度であると捉える。自由主義は「多数者の専制」の抑制を意図し、執政制度においては権力集中的な議院内閣制、選挙制度においては単独政権を生み易い小選挙区制の組み合わせを志向する。エリートの競争を通じて多数派を形成した政党が、民意に硬直的に縛られずに政策を実行することが狙いだ。イギリスが典型だが、内閣機能を強化し、小選挙区制を取り入れた近年の日本もこのタイプに分類できる。他方民主主義とは可能な限り治者と被治者の同一性を確保しようとするものであり、大統領制と比例代表制を志向する。マイノリティーを尊重し、社会のコンセンサスを重視した政策運営を目指す大陸ヨーロッパ諸国に多い。勿論いずれの組合せであっても代議制民主主義である以上、自由主義と民主主義の双方の要素を合わせ持つ。例えば議院内閣制や小選挙区制が自由主義的と言っても、普通選挙制を採用する以上、民主主義的でないはずはない。あくまで相対的な比重を問題にしているのだ。 政治が機能していないと言うが、政治が民意を反映していないことを指すのか、逆に、民意にとらわれ過ぎて何も決められないことを指すのか、それによって処方箋も変わってくるし、そもそも現行の政治制度は、批判者が政治に期待する「機能」を政治が発揮し過ぎないことを意図した側面を持つことを忘れるべきでない。既得権にとらわれた議会を軽視し、住民投票の意義を強調する自治体の長がメディアの注目を集めるが、彼は一体何を目指すのか。「決める政治」か、それとも「ふわっとした民意」の尊重か。前者であれば住民投票はベクトルが逆であり、むしろ必要なのは自治体における首長と議会の二元代表制の是正だ。後者であれば国政レベルの自由主義的改革に逆行し、中央と地方のねじれをさらに助長するだろう。政治家は結果責任を問われる。それはいい。だが政治制度は政治のプロセスやルールを決めるもので、長期的な視点から多面的に評価すべきものだ。個々の政治的イッシューに特定の結果を出すために変えるものでは決してない。 本書への不満を一つあげるなら小選挙区制への評価が若干甘いように思う。確かに小選挙区制は中選挙区制や比例代表制に比べて多党制を防ぎ、既得権にとらわれない「決める政治」に適合的な面を持つ。だが日本のようにイデオロギー分布がはっきりせず、無党派層が多い国では、ポピュリズムとの親和性が高い。自由主義を志向するはずの小選挙区制が歪な民主主義を帰結してしまうという逆説だ。
Posted by
課題図書。入門レベルにうってつけの良書。議会制民主主義の歴史を辿りながら、それぞれの政治制度の長所、短所をまとめた本。改めて全ての民意を完全に反映させることは難しいと実感しつつ、だからこそできる範囲のことは政治機関に担って欲しい。間違っても機能不全といった事態に陥ってはならない。
Posted by
自由主義(効率性)と民主主義(公平性)の結節点として代議制民主主義を、歴史的、課題的、制度的に読み解き、あるべき改革を探る。 最後の章で、代議制民主主義はしたたかでしなやかである、との一文まで至った時、本書の冗長で、広範な書き口、構成の意義、つまり、作者の意図が始めて分かった。...
自由主義(効率性)と民主主義(公平性)の結節点として代議制民主主義を、歴史的、課題的、制度的に読み解き、あるべき改革を探る。 最後の章で、代議制民主主義はしたたかでしなやかである、との一文まで至った時、本書の冗長で、広範な書き口、構成の意義、つまり、作者の意図が始めて分かった。 あちら立てれば、こちらが立たない、というバランス装置の重要性こそ認識すべきなのだ。
Posted by
そもそも、民主主義と議会制度は出自が異なるのに、今では民主主義と言えば、普通選挙に基づく議会制度が必須となっているが、これは、決して直接制民主主義の代替物では無く、自由主義と民主主義の貴重な接点であること。そして、自由主義的側面と民主主義的側面が互いに摩擦を起こすことこそが、必要...
そもそも、民主主義と議会制度は出自が異なるのに、今では民主主義と言えば、普通選挙に基づく議会制度が必須となっているが、これは、決して直接制民主主義の代替物では無く、自由主義と民主主義の貴重な接点であること。そして、自由主義的側面と民主主義的側面が互いに摩擦を起こすことこそが、必要なことなんじゃないのかなあと。 多数の専制に陥らないように民主主具は制御される必要があるし、政治家の正統性は民意に基づかねば維持できない。そして、熟議民主主義では、民主党政権が行った(偏った専門家主導の)討論型世論調査で実証されたように、却って専門家による専制を招きかねない。 そして、民意と政治家と官僚(専門家)の関係性を調整することは必要になっても、安易に直接民主制的な国民投票を導入するのは避ける方が、長期的な利益を確保できるような気がするのである。
Posted by
政治の世界をテレビなどで見ている時に、様々な問題に対する批判や泥仕合を見ることが多いように感じていたのですが。その原因が一体何なのか、政治家が悪いのか、官僚が悪いのか、それとも私たちが勉強不足なのか、わかっていないままに散髪屋の親父と化してしまっていました。それを理解する視点とし...
政治の世界をテレビなどで見ている時に、様々な問題に対する批判や泥仕合を見ることが多いように感じていたのですが。その原因が一体何なのか、政治家が悪いのか、官僚が悪いのか、それとも私たちが勉強不足なのか、わかっていないままに散髪屋の親父と化してしまっていました。それを理解する視点として、代議制民主主義が日本の政治体制であり、その制度の利点や問題点を知ることができたこと、本書を読んで良かったと思いました。世界の政治制度を知ることで、日本だけの問題でもないことを知ることも重要と感じます。 代議制民主主義は柔軟な制度であり、それゆえバランスをとることが困難ですが、よくも悪くもなる制度であること。その希望について書かれた良書だと思います。
Posted by
最近政府に対する批判として時々聞かれる「民主主義的でないという言葉がよくわからず(選挙で選ばれた代表が多数決で決定することがなぜ「民主主義的でない」の?)、かと言って厚い政治学の本を読む気もなく、ちょうど良さそうなタイトルの新書だったので読んでみました。 ものすごく要約すると、...
最近政府に対する批判として時々聞かれる「民主主義的でないという言葉がよくわからず(選挙で選ばれた代表が多数決で決定することがなぜ「民主主義的でない」の?)、かと言って厚い政治学の本を読む気もなく、ちょうど良さそうなタイトルの新書だったので読んでみました。 ものすごく要約すると、結局のところ、執政制度や選挙制度に一つの正解なんてものがあるわけなく、必要とされていることと、現状の制度のずれが大きくなったら、適宜改革は行っていく必要がある。そのキーワードが「自由主義的素」と「民主主義的要素」のバランスで、極端に寄り過ぎて良いことはない、難しいけどね、というとこでしょうか。 私は学生時代、政治に興味がなく、この手のことを全然知らなかった(「共和主義」の意味、大統領と首相がいる国ってそれぞれの役割はどうなっているの?、新興国って何で大統領制の国が多いのか?等ふと疑問に思ってもとくに調べはしなかった)ので、単純に勉強になりました。義務教育でこの辺のことをもっとやれば良いのに。
Posted by
『首相政治の制度分析』でサントリー学芸賞を受賞している京大政治学の看板教授が、初めて一般読者向けに著した政治制度論。同世代の東浩紀や國分功一郎が、議会政治の不調を前提に、その補完的制度を提案していること(東『一般意志2.0』、國分『来るべき民主主義』等)を意識しながら、政治制度...
『首相政治の制度分析』でサントリー学芸賞を受賞している京大政治学の看板教授が、初めて一般読者向けに著した政治制度論。同世代の東浩紀や國分功一郎が、議会政治の不調を前提に、その補完的制度を提案していること(東『一般意志2.0』、國分『来るべき民主主義』等)を意識しながら、政治制度の専門家として、代議制(議会制)民主主義の特性を分析し、その優位性を明らかにする。無論、単に現状を肯定するのではない。必要な制度改革のポイントも、理論的背景とともに示される。 この本で説明される政治学的知見は多岐にわたるが、中でも現在のわたしたちにとって有用なのは、自由主義と民主主義のバランスに着目する視点だろう。権力の集中を防ぎ、多様な利害の相互牽制によって偏った政策決定を排除し、結果として人々の自由を守ろうとする「自由主義」と、有権者の意思=民意が政策決定に反映されることを何より重視する「民主主義」との間には、一定の緊張関係がある。この2つの理念を調合しながら政治を安定化させる機能において、代議制民主主義の意義が積極的に見いだされる。 先般、「民主党は嫌いだけど、民主主義は守りたい」というやや自虐的なコピーで民主党のポスターに注目が集まった。これは安倍政権が「民主主義」を守っていないという批判的メッセージを当然含んでいる。しかし、この本を読んだあとでは、安倍政権に批判的な人であっても、それは民主主義的でないからダメなのか、あるいは自由主義的でないからダメなのかと、分析的に考えられるようになるだろう。政治リテラシーを得るとはそういうことだ。選挙イヤーに必要な読書として推したい。
Posted by
地方議会をはじめ代議制民主主義への批判論や否定論の声が高まる中、代議制民主主義のあり方と意義を改めて考えるという趣旨の本。代議制民主主義の歴史を振り返りつつ、明快な論理で代議制民主主義を分析し、今後の改革の方向について展望している。納得性の高い議論を展開しており、代議制民主主義へ...
地方議会をはじめ代議制民主主義への批判論や否定論の声が高まる中、代議制民主主義のあり方と意義を改めて考えるという趣旨の本。代議制民主主義の歴史を振り返りつつ、明快な論理で代議制民主主義を分析し、今後の改革の方向について展望している。納得性の高い議論を展開しており、代議制民主主義への理解を深めるには最適の1冊である。 著者は、代議制民主主義を、エリート間の競争や相互抑制を重視する自由主義的要素と、有権者の意思(民意)が政策決定に反映されることを重視する民主主義的要素の緊張関係を孕んだ存在だと捉え、その本質を「委任と責任の連鎖体系」であると指摘している。そして、代議制民主主義の2つの基幹的政治制度である「執政制度」「選挙制度」に注目し、代議制民主主義を「コンセンサス型(執政制度―権力分立的、選挙制度―比例制高い)」「中間型1(執政制度―権力分立的、選挙制度―比例性低い)」「中間型2(執政制度―権力集中的、選挙制度―比例性高い)」「多数主義型(執政制度―権力集中的、選挙制度―比例性低い)」の4つに分類している。 代議制民主主義への批判は、委任と責任の連鎖関係が機能不全をきたしていると認識されていることに原因があると指摘し、委任と責任の連鎖関係を円滑に機能させるような改革が必要だと主張している。そして、代議制民主主義は、基幹的政治制度の組み合わせにより多様性が存在するところに意義があり、機能不全が生じても、社会のニーズに適合した基幹的政治制度の組み合わせを変えることによって改善できる可能性が高いと指摘している。
Posted by
- 1
- 2