五行歌集 硝子離宮 の商品レビュー
花を飼いたい 凶暴に乱れ咲く花 あらゆる欲望を喰んで 昂然と 美しくなる花 歌集の冒頭にこの歌を置いたのは、ベストの選択であると思った。この作者は全てを知っている。生命が何であるか、それを突き動かすものが欲望に過ぎないこと、それによって美的なものを恣にしたいと宣言...
花を飼いたい 凶暴に乱れ咲く花 あらゆる欲望を喰んで 昂然と 美しくなる花 歌集の冒頭にこの歌を置いたのは、ベストの選択であると思った。この作者は全てを知っている。生命が何であるか、それを突き動かすものが欲望に過ぎないこと、それによって美的なものを恣にしたいと宣言しているのである。いささか抽象的に見えるこの歌集は、花々を鷲掴みする猛禽の貌を最初に見せる。 冀うものは美であるが、それを自分の意思のままに従わせないわけには行かない、というこの歌集全体に繰り広げられる姿勢が最初に示されている。 心の ほとりに 離宮を造る 美しい刹那ばかりを 棲まわせる 跋を書くために何度か『硝子離宮』を読んで、長く雑誌の原稿として彼女の歌を読み続けてきたのにもかかわらず、初めてその歌群の実体を見たという気になった。初めて感じたことはいくつかあり、その一つは、ああ、彼女の歌のテーマは男の美だったのだということだった。こんなに男性を美化した歌集をほかに思い出せない。 ということは、完全な男、あるいは少年に対する恋がテーマで、硝子離宮は、彼女がそれらの美少年のイマージュを幽閉し、美の極を造り込む彼女の精神の城である。ただ南野さんは一度も「美少年」という言葉は使っていない。 (中略) 彼女の美意識の選ぶ絵の具は主として黒と銀である。僅かに暗緑と青、深紅を用いる。これが言葉に対する厳しさの証しであるとでもいうように、烈しく禁欲的である。 しかし、あくまでも彼女は独りではなく、強い欲望と美意識によって至高の男? あるいは少年? あるいは恋のはかなごとを造り込む。 あまりの願望の烈しさに美意識は具体以上の確かさを与えられる。(五行歌の会主宰 草壁焔太 跋文より)
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南野さんの歌は、そう、離宮のようにこの世から少し浮いている。現実世界から、ふと迷い込んだ世界のような、それでも現を確かに映している。 繊細な感受性が捉えるのは、儚くて刹那の煌めき。脆くて危うくて壊れそうな切っ先。 作者自ら「自意識の礫」と語るこの言葉が紡ぐ「美」の礫に、全身打たれ...
南野さんの歌は、そう、離宮のようにこの世から少し浮いている。現実世界から、ふと迷い込んだ世界のような、それでも現を確かに映している。 繊細な感受性が捉えるのは、儚くて刹那の煌めき。脆くて危うくて壊れそうな切っ先。 作者自ら「自意識の礫」と語るこの言葉が紡ぐ「美」の礫に、全身打たれ溺れるがいい。 装丁メイキングストーリーはこちらから↓ http://shiduku.cocolog-nifty.com/heart/2015/10/post-b2ec.html
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