詩集 顔をあらう水 の商品レビュー
『 北極圏の氷はとけて 這い上がれない白熊水没 砂のてのひらでやすやすと 撃たれてたおれる民間人 (その画面はほんとうなのか) 打たれない、安い夜景に 料理番組(塩小さじ一) 格安枕 タワーの点滅 天気予報 (ほんとうなのか) 』 ー『パイン・ガーデン 松園別館...
『 北極圏の氷はとけて 這い上がれない白熊水没 砂のてのひらでやすやすと 撃たれてたおれる民間人 (その画面はほんとうなのか) 打たれない、安い夜景に 料理番組(塩小さじ一) 格安枕 タワーの点滅 天気予報 (ほんとうなのか) 』 ー『パイン・ガーデン 松園別館』 蜂飼耳の言葉は勢いよくカンバスに塗りたくられた油絵の具のように、迸り出たベクトルのそのまま昇華することもなくその場に留まり、触れるもの皆傷付けずには居られない。時に現代文明に対して振り上げられた拳の、握りしめ血の気を失った皮膚の色さえ見えたような気にもなるが、その意味するところはさっと曖昧な隠喩の向こう側に隠れてしまう。 『 振り返るときの 仕方をまちがえ 顔という顔は汚れている この世への参加を横へすべらせ いちいち確認し うなずいた記憶のない列にも 加わっているいつのまにか 「いい」とか「やだ」とか 「はい」「いいえ」 そのいちいちに 』 ー『ゆえに、そこにそらの』 さらさらとではなく、じとじとあるいはごつごつと言葉はゆく。全てを過去に置き去りにし、全てを未来へ押し返す。一瞬にしてオムニポテンツの視点を手にしたかのような全能感に包まれる。そして再び無能へと戻る。詩人の言葉の持つイナーシアに愕然となる。その波動の振幅の大きさに浮き沈みしながら、仕切りと判ったような気になりたがる矮小。 『 いなくなったひとの服が ひなたに 干されて ひるがえる いきていた時の持ち主よりも饒舌に 光と影を 差し出しなから (取り返しのつかないこともある) 空と海の境を 視界へ 挟みこみ 打ち寄せるものは意味ばかり 』 ー『いま』 打ち寄せるものは「意味」かも知れず、「無意味」かも知れず。服は何も語らず、服に語らせたがる自分がいるだけ。意味を押しつけたがる自意識を何と呼んだら良いのだろう。誰も頼んだ記憶のない言葉が口からこぼれるのを放置し、決して難解に響かないように祈る。世の中に溢れかえる言葉狩の自爆テロに屈しないのは良心によるものか。それとも全てを否定したがる天の邪鬼の戯れか。
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