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フランス革命という鏡 の商品レビュー

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2017/02/21

【工藤庸子・選】 若き政治学徒の着眼点と分析の力量が光る。「革命」を避け「改革」によって理想の政体を実現するために政治参加した大学人たちが、ドイツから批判的に捉えたフランス革命の歴史。 【熊谷英人・選】 フランス革命史論を題材にした研究であるとともに、「歴史叙述を政治思想として語...

【工藤庸子・選】 若き政治学徒の着眼点と分析の力量が光る。「革命」を避け「改革」によって理想の政体を実現するために政治参加した大学人たちが、ドイツから批判的に捉えたフランス革命の歴史。 【熊谷英人・選】 フランス革命史論を題材にした研究であるとともに、「歴史叙述を政治思想として語る」ことを試みた作品でもある。三人の主人公たちの革命史論から、歴史を叙述することの複雑さと妙味が少しでも伝わってくれれば、幸いである。

Posted byブクログ

2015/11/12

19世紀(三月前期)ドイツにおける「フランス革命史論」という歴史家による政論の文法を明らかにする研究。その代表者として、ダールマン、ドロイゼン、ジーベルといった自由主義知識人にして近代的歴史学の立役者が取り上げられる。全体の構成としては、まず「I フランス革命史論の誕生」で、革命...

19世紀(三月前期)ドイツにおける「フランス革命史論」という歴史家による政論の文法を明らかにする研究。その代表者として、ダールマン、ドロイゼン、ジーベルといった自由主義知識人にして近代的歴史学の立役者が取り上げられる。全体の構成としては、まず「I フランス革命史論の誕生」で、革命勃発当初から1830年までのドイツ知識人によるフランス革命史論が取り上げられる。革命に「哲学の勝利」を見るラインハルト、保守主義の立場から革命批判を続けたゲンツ、三部会招集を高く評価したアンシヨン、ラインハルト的な革命観を「歴史哲学」にまで高めたヘーゲルがまず扱われ、それから、近代歴史学直前の重要な革命史論として、ミニェとロテックのフランス革命論が論じられる。それに続くのが「II ダールマンと「憲法」」である。タイトルから分かるように、ダールマンは憲法に焦点を合わせてフランス革命を論じた。その際、国民議会や憲法制定議会で活躍した政治家たちが主として分析される。ダールマンにとっては、ミラボーが理想的な政治家であり、彼を失ったことが革命の軌道がズレていくことの要因となる。次が「III ドロイゼンと「国民」」であり、ここではドロイゼンが叙述の導きの糸とした「国民」に焦点が当てられる。ドロイゼンの歴史観においては、「旧き欧州」と決別する合図となった「解放戦争」――これには対ナポレオン戦争だけではなく革命戦争も含まれる――の結果登場したプロイセン、とりわけシュタイン男爵の政治構想に代表されるその統治原理こそが、近代世界を照らす光となる。これに続くのが「IV ジーベルと「社会問題」である。もっともこれは、ローレンツ・フォン・シュタインなどフランス革命の要因を探るうえで国家と区別された領域としての「社会」を分析するべきだという立場は意味しているが、だからといって社会主義や共産主義的な立場が言われているわけではない。むしろジーベルは、フランス革命は当初から社会主義的理念を内包しており、それがジャコバン独裁において頂点に達したと見る。その際の主導力は、社会問題に悩む「無産層」や「プロレタリアート」であり、この人々を動員した結果革命をコントロールできなかった政治家たちの無能力が批判されることになる。このように、フランス革命を分析することによって同時代の政治に関する教訓を得ようとする19世紀ドイツ歴史家たちの営為は、「古典古代以来の「実用的」歴史叙述、あるいは史論的伝統と、19世紀後半に確立して現代に至る専門的な歴史学的認識との絶妙な均衡なうえでのみ」成立し得たと著者は評している。そのような「絶妙な均衡」がどのように成り立っていたのかを生き生きと描き出す本書は、近代ドイツの重要な思想的伝統でありながらその政治思想的含意がさほど検討されてきたとは思われない――せいぜいのところ歴史叙述の「偏向」や政治中心主義といった否定的意義しか見られないような――「歴史主義」の重要な部分に光を当てる研究だと言えるだろう。

Posted byブクログ