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ムシェ 小さな英雄の物語 の商品レビュー

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8件のお客様レビュー

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2023/06/05

『ビルバオ−ニューヨーク−ビルバオ』の作者キルメン・ウリベによる長編小説、今作も前作に劣らずにすばらしい小説でした。 まずはその美しさ、特にロベールとヘルマンの友情を表現する箇所などは特に。 『ロベールの呼吸が急に止まる。ヘルマンは愛撫の手を止め、指先を少し離す。彼を起こしてし...

『ビルバオ−ニューヨーク−ビルバオ』の作者キルメン・ウリベによる長編小説、今作も前作に劣らずにすばらしい小説でした。 まずはその美しさ、特にロベールとヘルマンの友情を表現する箇所などは特に。 『ロベールの呼吸が急に止まる。ヘルマンは愛撫の手を止め、指先を少し離す。彼を起こしてしまいたくない。そうして撫でていることに気づかれたら、なんと思われるだろう?ヘルマンは恥ずかしさに耐えられないだろう。ロベールの息遣いがふたたび穏やかになる。ヘルマンは目を閉じる。そうして数分のあいだ、ロベールの柔らかな匂いを嗅ぎ、潮騒に耳を澄ませていると、思い出もまた波のように。砕けてはひとつまたひとつと押し寄せてきた。あるイメージが別のイメージを運んできては、川の水面に映った自分の顔を見るときのように、さまざまなかたちをつくり出し、姿を変えていく』 これはバベルの塔で作り出された72の言語のなかに含まれるというバスク語で書かれているのが美しさの要因であるのかもしれない。 そして読んでいると作者のつくり出した創作か史実にあるエピソードなのかがあやふやな、じつきに奇妙な感覚に陥っていきます。 たとえば、 ・ロベール・ヴァン・エーメーナという名の痩せ過ぎで耳の突き出た自転車選手 ・バスクの苦難という本に載っているラウアシュタという詩人の詩  鳩は怯えて飛び去り  山は静まりかえる  精悍な十人の若者が  命を失って地面に! ・ロバート・グレーヴスの回想録にあるシーグフリード・サスーンについての記述 ・ベートーベンが大声で歌いながら散歩をしていた話 ・ロベールとヘミングウェイの親交 ・ロベールとヴィックが落ち合う宿の名前「ナポレオンの寝台」 これらはキルメン・ウリベの創作に違いないと思います、その美しさと想像力に感動してしてしまいます。 前作に続いて船の名前も印象的です。 バスクから世界各地へ子供たちを避難させた船の名は『ハバナ号』もともとはアルフォンソ十三世号という豪華客船でした。 リューベック湾でノイエンガンメの囚人を満載したまま沈没する船の名は『カープ・アルコナ号』こちらも2万8千トンの豪華客船でした。 同じ用途で建造されたのにもかかわらず、方や生を運び、方や死を運ぶ。運命に翻弄されるのは人間だけではない、悲しい現実を見てしまいました。 ロベールはその英雄とされる気質を頑なに変えませんでした。それはヘルマンとの友情が失われ、元に戻ることが困難だとわかってしまったのが原因ではないかと思います。二度と家族のもとにもどらない。そんな気持ちが心の奥底にあって、まっすぐな心を持ち続けることができたのではないでしょうか。

Posted byブクログ

2020/09/09

スペイン内戦でバスクから疎開児童を受け入れ、第二次大戦でレジスタンスに身を投じ、強制収容所に囚われることになった一人の小さな英雄の人生は、フィクションとノンフィクションが混ざり合いながら語られる。 凄惨な過去を理解し、そこになんらかの決着をつけるべく、私たちは過去の足跡をたどる...

スペイン内戦でバスクから疎開児童を受け入れ、第二次大戦でレジスタンスに身を投じ、強制収容所に囚われることになった一人の小さな英雄の人生は、フィクションとノンフィクションが混ざり合いながら語られる。 凄惨な過去を理解し、そこになんらかの決着をつけるべく、私たちは過去の足跡をたどるのかもしれない。

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2020/06/20

実在したナチスへのレジスタンスの末命を落としたロベール・ムシェという人物をもとにした小説でありノンフィクションであるという構成が、不思議な読後感を残す。スペイン内戦の際に疎開したバスク人の子供を受け入れ、大切にしていたことは、必ずしも物語の主軸にはなっていないように思うが、ノンフ...

実在したナチスへのレジスタンスの末命を落としたロベール・ムシェという人物をもとにした小説でありノンフィクションであるという構成が、不思議な読後感を残す。スペイン内戦の際に疎開したバスク人の子供を受け入れ、大切にしていたことは、必ずしも物語の主軸にはなっていないように思うが、ノンフィクションとしての本書を形作る大きな要素にはなっていると思う。

Posted byブクログ

2017/05/31

内戦時代にバスクから疎開した少女を引き取ったことで人生が思わぬ方向へ変わっていく、と帯にはあるけど、そうだっけか? むしろかつての親友であり、一度は深刻な絶交を経てふたたびつきあうようになるヘルマンのほうがムシェの人生に多大な影響を及ぼしている。若き日の、ほとんどボーイズラブのよ...

内戦時代にバスクから疎開した少女を引き取ったことで人生が思わぬ方向へ変わっていく、と帯にはあるけど、そうだっけか? むしろかつての親友であり、一度は深刻な絶交を経てふたたびつきあうようになるヘルマンのほうがムシェの人生に多大な影響を及ぼしている。若き日の、ほとんどボーイズラブのような輝かしいふたり。絶交にいたる苦々しい思い。そしてふたたび交流を初めて、ヘルマンがムシェをレジスタンス運動に誘ったことが、結果的に見れば新婚だったムシェの幸せをうばってしまったんじゃないのか。 ヘルマンに誘われなくてもムシェはレジスタンスに身を投じていたのかもしれないけれど。 などとぶつぶつ思ったが、ぐっと引き込まれてつぎつぎとページをめくり、あっという間に読み終えてしまったのもたしか。何かを成し遂げたとか成し遂げないとかではなく、自分に誇りを持って、いつも人のことを考えながら真摯に生き抜いたムシェ。そしてその人生の証を大切に守り抜いた妻と娘。丹念に掘り起こした作者。人間が生きるっていうのはどういうことなのかとあらためてしみじみ感じるものがあった。

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2016/04/02

著者のキルメン・ウリベは、話者数が100万人に満たないというバスク語の作家で、本書もバスク語で書かれたのだが主人公はベルギーのロベール・ムシェという実在の人物である。ムシェは、スペインの内戦によりバスクから疎開してきた少女を一時引き取り、自分の娘のように愛した。 ウリベは、当初は...

著者のキルメン・ウリベは、話者数が100万人に満たないというバスク語の作家で、本書もバスク語で書かれたのだが主人公はベルギーのロベール・ムシェという実在の人物である。ムシェは、スペインの内戦によりバスクから疎開してきた少女を一時引き取り、自分の娘のように愛した。 ウリベは、当初はバスクの児童疎開の話からたぐりよせてムシェという人物に出会い、その娘から「伝記ではなく小説を書いてほしい」と託され、本書が生まれたのだそうだ。 小説という創作をもまじえたことにより、いきいきとした部分と、実話であるがゆえにあいまいさの残る部分とが溶けあい、絶妙な話の運びとなった。語り手は「僕」、つまりウリベなのだが、実際のウリベなのかどうかもあいまいで、こういう語りを「オートフィクション」というのだと訳者あとがきで初めて知った。 「小さな英雄」というタイトルが示す通り、反ファシズムに関わった、当時はよくいたであろう一人の市民の人生である。読み終わったときにようやくムシェという人物がつかめた気がして、もう一度読み直し、その時々のムシェの心情を想像することができるようになった。 ムシェも、ウリベと同様、少数言語(フラマン語)を母語とした作家であり翻訳家であった。そこにウリベが自分を見出したのだろうと思うとともに、バスク語で書かれた本書を日本語にしてくれた訳者がいるという事実も寿ぎたいと思った。

Posted byブクログ

2016/04/01

良い本と思った。「オートフィクション」という手法は知らなかったけど,それも心地よかった。でもHHhHの方が上かな。 朝日の書評で「移民」に視点が向けられていたけど,ちょっと違うんちゃうかなと思った。

Posted byブクログ

2016/03/17

http://blog.goo.ne.jp/abcde1944/e/47f0ab0302020ae3336059a6189752c1

Posted byブクログ

2016/03/01

何度も胸が詰まる。戦争は何もかも全てを奪う。 「中国の古い詩によれば、二人の人間が激しく愛し合い、あまりに強い結びつきが生まれると、そのどちらかが死んでしまったとき、本当に死んでしまったのは、その後も立って歩き続けているほうなのだという。」

Posted byブクログ