ヴァーグナーの反ユダヤ思想とナチズム の商品レビュー
ヴァーグナー(ワーグナー)の反ユダヤ主義、反ユダヤ思想とナチズム、ヒトラーら第三帝国期の人種主義等の思想の関係を深く掘り下げようとする書籍。類書に邦訳があるものではヨアヒム・ケーラー著の「ワーグナーのヒトラー 『ユダヤ』に取り憑かれた預言者と執行者」があるが、これに比べると、ド...
ヴァーグナー(ワーグナー)の反ユダヤ主義、反ユダヤ思想とナチズム、ヒトラーら第三帝国期の人種主義等の思想の関係を深く掘り下げようとする書籍。類書に邦訳があるものではヨアヒム・ケーラー著の「ワーグナーのヒトラー 『ユダヤ』に取り憑かれた預言者と執行者」があるが、これに比べると、ドイツ語原文や出典の明記が豊富な注釈で出され学術論文に近い。ワーグナーの反ユダヤ主義を単なる「ナチスやヒトラーに利用されただけ」とするような軽薄な理解と無関心から、両者は不可分であり密接性が高いという趣旨は説得力に富む。 これらを通じて、あとがきなどで筆者はワーグナーの反ユダヤ主義、ナチズム、ヒトラーや第三帝国、ホロコーストだけにとどまらない、人間全般に潜む、仄暗い異質な他者やその集団排斥の本能的なものまでの考察の必要性を感じているようであり、このような姿勢や考えは私個人としても納得、共感できるもので、本書は特にワーグナーというクラシック音楽のオペラの巨匠に潜むそれに焦点を当てたものであるから、ワーグナーの音楽を愛好する人間にぜひ熟読してもらいたかが70~80年前の人類史上最大の戦乱たる第二次世界大戦やその渦中でのみ初めて可能となった人類史上最大の犯罪行為、ホロコーストなどについて今一度吟味、熟考してもらいたい。この国の愛好家や評論家、プロの奏者に限らずクラシック音楽愛好家はヨーロッパから発したこれらの大惨劇に対する真摯な向き合い方をしている、あるいはできる教養の広さを兼務する人が少ないように思われるのだ。一例を上げれば、吉田秀和や宇野功芳らがホロコーストについて熟考してヨーロッパ世界とワーグナーらクラシック音楽関係者の反ユダヤ主義に思いを致した文章などは読んだ事がない。脳天気すぎるそれらの人々にこそ、現代でも生起し続けている異質な他者への排斥意識の抑制に本書は一役買うだろう。優良推薦図書。
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