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フィラデルフィア染色体 の商品レビュー

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2019/01/05

慢性骨髄性白血病(CML)を引き起こす異常染色体の発見から、その治療薬となるチロシンキナーゼ阻害薬グリベックが世に送り出されるまでの数十年間を描いた話。 何人もの研究者がそれぞれ長年にわたる地道な研究を続け、それらの研究が出会い、その結晶として世界各地のCML患者を救う薬が誕生...

慢性骨髄性白血病(CML)を引き起こす異常染色体の発見から、その治療薬となるチロシンキナーゼ阻害薬グリベックが世に送り出されるまでの数十年間を描いた話。 何人もの研究者がそれぞれ長年にわたる地道な研究を続け、それらの研究が出会い、その結晶として世界各地のCML患者を救う薬が誕生した。ワインバーグ博士が序文の中で彼らのことを「英雄たち」と紹介していたが、その通りだと思った。とても感動した。

Posted byブクログ

2016/02/05

<がん分子遺伝学の黎明期と、最初の標的薬誕生までの道のり> 白血病というと、かつては不治の病の代名詞で、一昔前のテレビドラマでは薄幸のヒロインが罹る病気の代表でもあった。今でも手強い疾患であることに違いはないが、しかし、薬による治癒の道も拓けてきている。 がんの根底に遺伝子があ...

<がん分子遺伝学の黎明期と、最初の標的薬誕生までの道のり> 白血病というと、かつては不治の病の代名詞で、一昔前のテレビドラマでは薄幸のヒロインが罹る病気の代表でもあった。今でも手強い疾患であることに違いはないが、しかし、薬による治癒の道も拓けてきている。 がんの根底に遺伝子があり、そしてその遺伝子の作用を抑えることが出来れば、治るがんもある。 これは、それを示した1つの薬と、それを世に送り出すために尽力した人々の物語である。 その名はグリベック(Gleevec)。一般名はイマチニブ・メシル酸塩(Imatinib mesylate)。一部の慢性骨髄性白血病に対する薬である。この疾患の徴候となるのが本書の表題のフィラデルフィア染色体である。 染色体というと、イモムシを思わせる形のものが2つで対を作ったものである。大きさの順に並べられ、番号が付けられた写真を見たことがある人もいるだろう。この数は種によって異なり、ヒトには46本(23対)ある。大きさや、染色剤で処理した際の縞模様の現れ方により、それぞれの番号の染色体を判別することが可能である。 遺伝子を乗せた染色体には、ときどき異常が生じる。その結果、重篤な疾患を引き起こすことがある。9番目と22番目の染色体の一部が入れ替わった(転座)フィラデルフィア染色体もその一例で、「異常」な22番染色体は、「異常」な酵素を作る。その結果、白血病が起こることがわかっている。 だが、それが判明するまでには、いくつものパーツが必要だった。染色体をきれいな形で見られる技術。染色体が遺伝子を担うという事実の判明。がんと遺伝子の関係。がんとウイルスの関係。ウイルスと遺伝子の関係。悪性腫瘍を生み出す遺伝子が作るタンパク質。細胞内の活動の「スイッチ」の判明。 多くの人々が、暗闇の中で手探りをするように、ゴールのわからぬまま、手に届く範囲の事柄の「謎」を少しずつ少しずつ突き止めていく。 さまざまなパーツが噛み合って生じた大きな絵には、以下のような図が現れていた。 転座によって生じたフィラデルフィア染色体は、活性が高い「チロシンキナーゼ」と呼ばれる酵素の元となる遺伝子を生じる。チロシンキナーゼ自体は正常な細胞にもあるものだが、この染色体が作る酵素、Bcl/ablの異常な点は、「常にオン」であることである。とにかくひたすら働き続けるのだ。これが働いている細胞もまた、常に増殖状態となる。すなわちがん化である。 ここまでを描くのが、本書の最初の1/3ほどである。 それでは、この酵素を抑えることが出来たらどうか。そんな薬があったら、このがんを止められるのではないか。 フィラデルフィア染色体が生む異常な酵素、Bcl/ablを止めることができる分子を捜せ。 こうして見つかってきたのがグリベックの元になる化合物である。一般名のイマチニブの語尾、「inib」は、阻害剤(inhibitor)を示す。イマチニブはこうした作用機序を持つ薬剤、分子標的薬(ある分子を抑えることを目的とした薬)の先駆けであり、以後、いくつかの「~(イ)ニブ」が登場している。(「~マブ」という標的薬もあるが、「~ニブ」系が低分子量であるのに対して、こちらはモノクローナル抗体である)。 この発見に至るまでがもう1つの山である。 しかし、薬剤候補が見つかっただけでは終わらない。世に出るまでには、有効性・安全性の試験が必要である。こうした試験には費用が掛かる。製薬会社がこれに踏み切るかどうかは、かなりシビアな見極めを要する。ましてやグリベック(イマチニブ)は、それまでにない発想の、それまでにないタイプの薬だった。「候補」が本当に薬として適切かどうかわからない中、薬剤発見者・患者・製薬会社間のそれぞれの思惑が交錯する。 これが本書最後の山となる。 結果として、世に出たグリベックは、非常に優秀な薬だったといってよいだろう。 フィラデルフィア染色体を持つ人の症例では、ほとんど完全な血液学的寛解を示すことも多かった。Bcl/ablが抑えられた結果、フィラデルフィア染色体を持つ細胞の異常な増殖が止まり、ある程度の期間、服用した後は、フィラデルフィア染色体がほぼ認められなくなる人もいたのだ。 もちろん、現在でも、どんなタイプに対しても、薬でがんを抑えられるという状況にあるわけではない。グリベックが効くはずのタイプのがんでも、耐性のものが出てきている例もある。ただ、がんという疾患にこうして向かう道もあることを示した点で、グリベックの果たした役割は大きい。 1つの疾患とその薬を切り口として、細胞・遺伝子研究と薬剤開発の歴史を俯瞰する、広がりのある読み物である。

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