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植手通有集(1) の商品レビュー

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2024/03/28

日本思想史の研究者である著者が、さまざまな機会に発表した文章を書きあらためた本です。考察の対象にとりあげられているのは、中江兆民の『三酔人経綸問答』や、徳富蘇峰と陸羯南の思想などです。 蘇峰の思想については、本シリーズ第2巻で全面的にあつかわれていることもあり、本巻では羯南の思...

日本思想史の研究者である著者が、さまざまな機会に発表した文章を書きあらためた本です。考察の対象にとりあげられているのは、中江兆民の『三酔人経綸問答』や、徳富蘇峰と陸羯南の思想などです。 蘇峰の思想については、本シリーズ第2巻で全面的にあつかわれていることもあり、本巻では羯南の思想についての考察に多くのページが割かれています。なかでも著者は、日清戦争後の羯南が軍国主義に対する批判のトーンを強めていったことに注目し、従来の彼の唱えていた「国民主義」の立場との連続性と変化について考察をおこなっています。 また著者は、この時期の羯南の帝国主義についての理解についても、検討をくわえています。羯南は、西洋列強の海外進出が一定の段階に到達した資本主義の経済的な必要性と結びついていたことに気づいていながらも、国家による侵略と民間の経済活動や文化活動とのあいだに線を引いており、そのために彼の帝国主義批判が軍国主義批判という側面に限定されるものだったことを指摘しています。 さらに、同時期の羯南が中国や朝鮮に対する侮蔑的な発言をくり返していたことについても、著者は目を向けています。ただし、「ロシアの侵出に対しては強く抵抗せず、日本が危険を冒してロシアと戦いその勢力を除去すると、今度は日本の勢力を排除しようとしてくるのはいったい何事かといういらだちがあった」としながらも、当時の国際社会と国内問題に対する羯南の一貫した立場を見いだすことのむずかしさが率直に語られており、そうした問題についての後進の研究に対する期待が表明されています。

Posted byブクログ