みんな彗星を見ていた の商品レビュー
『転がる香港に苔は生えない』の星野博美である。自らのルーツに探究心を燃やしながら、しかし、それは殆どこじ付けで、かと言って信仰心が強いわけでもない出発点から、天正遣欧少年使節団に引き込まれ、気付くと、リュートという楽器を習い、キリシタンに関係する土地を巡る。だが、丁寧な取材と自ら...
『転がる香港に苔は生えない』の星野博美である。自らのルーツに探究心を燃やしながら、しかし、それは殆どこじ付けで、かと言って信仰心が強いわけでもない出発点から、天正遣欧少年使節団に引き込まれ、気付くと、リュートという楽器を習い、キリシタンに関係する土地を巡る。だが、丁寧な取材と自ら体験してみよ、というようなスタンスが分かりやすく歴史を解説し、時々、キリシタンに感情移入する。 しかし、元来、宗教の増殖欲求に対して、私はあまり良い印象を持っていない。布教の必要性が理解できず、イデオロギーの内発的成長欲求、領域拡大欲求を苦々しく見てしまう。著者もその点では冷静である。 ー 2013年3月に教皇フランシスコが就任して以来、教皇の記事が新聞に登場する機会が格段に増えた。宮殿住まいや教皇専用の豪華なリムジンを拒否したりするからこそ、教皇はメディアの注目を集める。清貧を貫き、率先して貧しい人々と言葉を交わす姿には、カトリック信者でなくとも好感を抱く。就任以来、精力的に仕事をしている印象がある。教皇フランシスコには確かに人間としての魅力もあるが、メディア戦略が巧みだなと言う印象も一方では強く受ける。広報重視の姿勢は教皇がイエズス会出身だからだろうかと思ったりもする。 ー 雲仙温泉では、小さな穴をいくつも開けた柄杓に温泉の熱湯を入れ、棄教しないキリスタンの体にかけることを繰り返し、息も絶え絶えになったところで、煮えたぎった谷底に突き落とすと言う筆舌に尽くしがたいキリシタン責めが行われた。 ー カトリック教会は回心の物語を好む。聖書の記述者として知られ最後は逆さ磔で殉教したパウロもまた元はキリスト教の迫害者だった。全く正反対の価値観を持ち、世俗的な生き方をしていた人間が神の道に入るからこそ、その信仰は強固なものとなると言う信念が、信者には強い引力を発揮するのだろう。それはカトリックに限った傾向ではなく、宗教と言うものの本質が回心を好むのかもしれない。 信仰が分断や悲しい結果を齎すならば、そこには救いはない。キリシタンの悲運を巡り、抗争と惨劇に改めて触れる事で強く思う。
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少しずつ 噛みしめるように感動しながら読んだ 旅行記 かと思ったが日本とキリスト教をふかんする貴重な 物語だった
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東西の出合い、少数者への温かい眼差し、自分の感情を簡潔表す文章、星野氏の著作で、先ず私が好感を覚える点である。 自分の感情を簡潔に表すことは、やってみると意外と難しい。どうしても着飾ろうとするのが、人間の性だからだ。 しかしそれ以上に、彼女の関心の広げ方には、畏敬の念すら覚え...
東西の出合い、少数者への温かい眼差し、自分の感情を簡潔表す文章、星野氏の著作で、先ず私が好感を覚える点である。 自分の感情を簡潔に表すことは、やってみると意外と難しい。どうしても着飾ろうとするのが、人間の性だからだ。 しかしそれ以上に、彼女の関心の広げ方には、畏敬の念すら覚える。 とにかく、気になったことは知りたいと突き進む様子が、ページを繰るごとに手にとるように伝わってくる。だから、まだ読み終わらぬうちに、別の著作を入手したくなってしまう。
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#星野博美 「 #みんな彗星をみていた 私的キリシタン 探訪記」読了。星野さんの本は「転がる香港に苔は生えない」から時々に読んできた。星野さん自身と題材が骨絡みになっていく印象がありある意味、私小説作家なのではないか。美を削るように書いておられるようで、そこが少し気になる。
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日本とキリスト教の関わりを、江戸初期、現代、長崎、東京、千葉、スペイン、香港など行ったり来たりしながら描く随筆。からりとした語り口であるが、客観的、冷静に事実を捉え共感を持ちやすい。キリスト教という、もっとも身近で、歴史や社会など学校の授業にもよく主要人物や事件が取り上げられるも...
日本とキリスト教の関わりを、江戸初期、現代、長崎、東京、千葉、スペイン、香港など行ったり来たりしながら描く随筆。からりとした語り口であるが、客観的、冷静に事実を捉え共感を持ちやすい。キリスト教という、もっとも身近で、歴史や社会など学校の授業にもよく主要人物や事件が取り上げられるものありながら、実はよくわからないものを、ぐっと個人に近寄らせてくれるもので一読の価値あり。例えば現代人は長崎を「殉教の地」などと半ば美化して表現したりするが、殉教とは「異教徒として処刑されること」であり、もっと史実・事実に目を向けなければならないだろう。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
著者の足取りを追えるように書かれているのがとてもありがたい。おそらく、こういう話題だと追いつけないのだろうなあ。悲惨な話が多いので読むのはなかなか大変。最後がスペインなのはよかった。一度行って見たい。
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個人的興味をつのらせ過ぎて中世の楽器リュートを習い、長崎のキリシタンの足跡をとことん辿る旅。仏教の家庭に育ち、ミッションスクールに通った星野さん。歴史家でもなく宗教家でもない彼女ならではの、極めてフラットな視点から深く掘り下げた話がとても面白い。
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前半の楽器のくだりはあまり要らないのではと思いましたが、中盤からの実地での探索などを通して深めていく部分についてはとても良かったです。前半はスピリチュアルな要素?も書いてあったりして投げ出しそうになったので星3つ。
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西洋から見たキリシタン迫害は、どのように見えるのか。カトリック系大学で学んだ女性の視点による長崎、島原、キリシタン大名有馬晴信・大村の膝元などの探訪記。中浦ジュリアンなど4人の天正少年使節の里も。そしてスペインのロヨラ訪問。スペインでは日本の印象は、「村の出身の身近な宣教師(パー...
西洋から見たキリシタン迫害は、どのように見えるのか。カトリック系大学で学んだ女性の視点による長崎、島原、キリシタン大名有馬晴信・大村の膝元などの探訪記。中浦ジュリアンなど4人の天正少年使節の里も。そしてスペインのロヨラ訪問。スペインでは日本の印象は、「村の出身の身近な宣教師(パードレ)たちが残酷に殺された場所!」その時、日本人が多く殺されたことも知らない!実は宣教師たちが日本に潜入したのは、日本人キリシタンを見捨てることができず、彼らと一緒に死ぬためであったとのこと。カトリック教会の列聖、列福という仕組みがあり、日本での出来事が詳細に欧州には伝わっていたということ。キリシタン所縁の地を世界遺産にというのは著者にとっては御目出度すぎる滑稽噺かも知れない。衝撃なのは、「信徒発見」と美談として語られる1865年に浦上天主堂に名乗り出た隠れキリシタンのその後である。彼らも迫害され、牢に入れられ、600人近くが死んでいった者も多いとは衝撃的な事実!多くの日本人たちの悲惨な生涯が記録されているのは、一部の人たちだけであるとのこと。イエズス会や托鉢修道会の宗派対立が全体を把握できなくしているということも残念なことである。またそのことを日本人たちも実は気がついていたのは驚きである。 日本人の改宗に宗教画が効果があったとの記述は成程!というところ。特に聖母マリア像はいかにも日本人好みに思われる。1582年3月8日の巨大彗星出現が、この年の大事件!を予言していたのはいかにも神秘的。
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好奇心の赴くままに、読み漁り、足を運んでいます。当時の楽器リュートまで誂え習得して、広がる探究心と掘り下げる情熱が眩しい。おかげで血が通った我が国のキリスト教盛衰史になっています。ところで、教会群は今までの世界遺産としてはタイプが違います。海外のキリスト者が殉教の地に来る目的。長...
好奇心の赴くままに、読み漁り、足を運んでいます。当時の楽器リュートまで誂え習得して、広がる探究心と掘り下げる情熱が眩しい。おかげで血が通った我が国のキリスト教盛衰史になっています。ところで、教会群は今までの世界遺産としてはタイプが違います。海外のキリスト者が殉教の地に来る目的。長崎はその残虐な迫害史に向き合う覚悟があるのでしょうか?どうやらエキゾチックやノスタルジーだけでは済まない遺産と気づかされました。
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