肩をすくめるアトラス(第一部) の商品レビュー
アメリカでは聖書の次に読まれているというアインランドですが、なぜか日本での知名度は今ひとつ。私もつい最近知りました。さっそく読んでみようと思い書店に行き、書棚に見つけた本のなんと分厚いこと!! 弁当箱のような大きさに引いてしまい、興味はありつつも読み出せずにいました。そんな折、文...
アメリカでは聖書の次に読まれているというアインランドですが、なぜか日本での知名度は今ひとつ。私もつい最近知りました。さっそく読んでみようと思い書店に行き、書棚に見つけた本のなんと分厚いこと!! 弁当箱のような大きさに引いてしまい、興味はありつつも読み出せずにいました。そんな折、文庫での再出版。電車の中でも読めるようになったのを機に読み始めました。 読みやすくなったとはいえ全三巻、それぞれ550ページ、594ページ、768ページという大著、文字のポイントも通常の文庫本より小さめで、読み切るには相当の時間が必要です。また、アインランドの哲学を主人公のセリフとして話させているため、文章も難解で理解するためには相当の集中力と忍耐力も必要です。特に、第三部の第七章は相当腰を据えて読む必要があります。私はすべて読み終わるのに三週間を要しました。 読み切った感想ですが・・・この本は必読の書であり、まさに今こそ読むべき本であると思います。 彼女の思想はいわゆるリバタリアンや新自由主義の精神的支柱になったと言われています。事実、そういう陣営の主要人物の多くが、アインランドからの影響を語っています。ただ、彼女は明確にリバタリアンを否定していますし、無政府主義も否定しています。彼女のメッセージはいわゆるレッセフェールではなく、『出る杭を打つな』であり、すぐれた才能を持った人物たちの創造性を最大限活かすことが人類全体の幸福につながるのだということを訴えているように私には思えます。それにしても、その度合いが極端すぎる印象を受けるのは、彼女の故郷であるロシアが共産主義化していく過程を見届けた影響もあるのではないでしょうか。 ただ、この小説が書かれていた頃は、まだまだ世界全体が発展途上であり、能力や志を持っていた人たちの多くがその才能を発揮したのは、社会のインフラ整備など、社会全体が大きな恩恵を被る分野においてでした。たとえ、『実業家』や『産業資本家』が利己的にしか行動しなかったとしても、彼らの目的と社会全体の利益が一致する時代でした。 さて、現代はどうでしょう。能力、才覚を持った人間たちの多くが向かうのはマネー資本主義。実物の紙幣や硬貨すら動かない、電脳空間のみでのやり取り。物質的なものは何も生み出さず、いわゆるトリクルダウンも生まない、勝者のみが潤う、まさに1%-99%の世界。この現状を見て、アインランドはどう思うのか、非常に興味があります。 何にしても、賛否が大きく分かれる書籍であることは間違いありません。日本での知名度が低いのは、いわゆる『日本的』な感覚からは受け入れることが難しい思想なのでしょう。ですが、この機会にぜひ一読されることをおすすめします。
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