革新幻想の戦後史(上) の商品レビュー
あとがき後の解説にあるように、本書は革新幻想の時代下における著者の信仰告白である。信仰の原風景ともいえる佐渡の有田八郎と北昤吉の生き方から革新幻想の始まりが語られる。それは丸山真男のいう悔恨共同体と、著者の言による無念共同体による社会的分裂から始まった。その後50年代を境に世論の...
あとがき後の解説にあるように、本書は革新幻想の時代下における著者の信仰告白である。信仰の原風景ともいえる佐渡の有田八郎と北昤吉の生き方から革新幻想の始まりが語られる。それは丸山真男のいう悔恨共同体と、著者の言による無念共同体による社会的分裂から始まった。その後50年代を境に世論の多数が改憲から護憲にかわって以降、経済成長と安全保障が確保されるのであれば政治体制を現状維持しようとする花より団子的価値観が是となった。また政治家も当選のために改憲を語らなくなった。このことは革新派をおおいに元気づけ、また勘違いもさせた。革新派は、その思想がもつ先進的な理念や理想が支持されたと考えたかもしれないが、世論はその理想や理念に共感したのではなく、戦争体験の反動として頑なな保守派を嫌ったのではないだろうか。戦争体験者が減れば同時に革新思想にも陰りが見えるわけで、そのような意味でも革新は幻想だったのだと思う。 加藤典洋の「敗戦後論」にたとえとして登場するジキル博士とハイド氏の典型を見るよう。戦死者と共同体を持たないことが革新幻想であり、戦死者と共同体をもつことが無念共同体ではないだろうか。
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