二・二六事件蹶起将校最後の手記 の商品レビュー
とあるご縁で手に入れた本。解説にもあるように、二・二六事件で蹶起将校として参じながらも「観察者」としての側面を持っていた山本又だからこそ書けたと思われる描写で、たいへん勉強になる。蹶起将校たちの空気感を、山本又は客観的に捉えられる立場にいたのであろうことが伝わってくる。 現代語...
とあるご縁で手に入れた本。解説にもあるように、二・二六事件で蹶起将校として参じながらも「観察者」としての側面を持っていた山本又だからこそ書けたと思われる描写で、たいへん勉強になる。蹶起将校たちの空気感を、山本又は客観的に捉えられる立場にいたのであろうことが伝わってくる。 現代語訳、原文、解説という三部構成のおかげで、読み物としても資料としても扱える本になっているのがいい。 獄中で事件を回想した記述が元なので、多少史実と違う部分があり、そこは注意が必要だけれども、解説でそのあたりも一通りフォローされている。
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郷土史家の鈴木俊彦氏が本書を世に送るきっかけとなったのは、二・二六事件で刑死した安藤輝三大尉との縁であった。鈴木氏が学生時代に下宿したのが偶然安藤大尉のご母堂宅であり、それから安藤大尉について資料を収集するようになったという。そして蹶起参加者の中に同郷の人物山本又を見出し、知遇を...
郷土史家の鈴木俊彦氏が本書を世に送るきっかけとなったのは、二・二六事件で刑死した安藤輝三大尉との縁であった。鈴木氏が学生時代に下宿したのが偶然安藤大尉のご母堂宅であり、それから安藤大尉について資料を収集するようになったという。そして蹶起参加者の中に同郷の人物山本又を見出し、知遇を得た遺族から山本の日記三冊と「二、二六日本革命史」と題する手記を託されたのである。その手記こそは、処刑前の安藤大尉その人から「山本さん、生き残って二、二六日本革命史を書いて下さい」と嘱望され、まさに血涙を絞りながら獄中で書き溜めたものであった。 本書は鈴木氏による現代語訳、山本又の原文、保阪正康氏による解説の3部構成になっており、その価値については保阪氏の解説に詳しい。山本は青年将校たちよりも一回りほど年長で、事件当時既に退役していた叩き上げの予備少尉であった。事件の渦中にありながら中心人物たちとは少し離れた視点でその推移を観察し、指揮する部隊ももたず比較的自由に独自の行動をとっている。そのため、伝聞も含めてこれまで知られていなかった事実も記されており、事件の過程を知る上で磯部浅一の獄中手記に勝るとも劣らない価値をもっている。 鈴木氏が山本の遺族から聴取した記録によれば、釈放後の山本は対米開戦を知ると家族に「日本はこの戦争に必ず負けるぞ。馬鹿なことをするもんだ」と感想を漏らし、戦後も終生「もし私たちの革命が成功していたなら、こんな戦争はしなかったし、こんな日本になることもなかった」と繰り返していたという。もちろん、昭和維新が成就していたとして日本の行く末がどのようなものになったかは知る由もない。しかし、自分たちを虫けらのように踏み潰して行った徒輩が祖国を破滅に導いていく様を、山本はどのような想いで眺めていたのだろうか。
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