東京旧市街地を歩く の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
森岡書店の店主森岡督行氏の本。 東京には旧市街がない?! 欧州の都市のようなOld Townを仮に定めるとしたらどこになるだろうか?と発想して本書を編んだ。 確かに、プラハにもワルシャワにも、タリンにもビリュニスにもクロアチアの各都市にもOld Townと称する一角があった。観光名所にもなっている。それは日本と違って、石の文化だということは容易に推測できるけど、日本にだって、明治以降に造られた「鉄とコンクリート」の旧い街並みがある。 ということで、明治22年から昭和18年まで”東京市”と言われた地区を中心に、東京駅が出来るまで東京の玄関だった万世橋駅から広がる街を「旧市街」と定め、今に残る古い建物を写真と文章で紹介している。 旧万世橋駅高架はショッピングモール(マーチエキュート神田)として残っていたり、有名なニコライ聖堂のほか、カトリック神田教会があったり。同潤会アパート同じ設計者の奥野ビルは映画「ノルウェーの森」のロケに使われた建物だそうだ。 三越、和光本館、日銀など、見るからに古い建物の設計や建設にまつわる逸話も豊富に紹介されている。森岡書店の新装開店先も、当然この界隈にある昭和4年に建てられたビルの中なのだ。 東京旧市街を写真で楽しく散策できる。 一方、写真でその建物だけ、あるいは建物の一部だけを捉えると、確かに明治大正のモダニズムを感じる味わいが残っていることは分かるが、少し画角を広げると、すぐ後ろ、いや両脇はもう近代的なガラス張りのビルディングだったりする。旧い建物を訪ねて今に残るロマンを感じると同時に、まるで統一感ののない東京の街づくりの残念さも見えてしまうのだった。 新旧混在した東京を、スクラップ&ビルドを繰り返す新陳代謝の旺盛なエネルギッシュな街と捉えるか、長期的な展望のない無計画な街と捉えるか、本書を持って街歩きをしながら感じざるを得なかった。
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