ルネサンス の商品レビュー
オスカー・ワイルドが絶賛した唯美主義者ペイターの代表作であり、世紀末文学の一つの潮流を作った傑作評論集だ。格調高く凝縮された表現は安易な理解を寄せ付けないが、繰り返し熟読玩味することで、次第にその存在感を顕わにする読み応えのある本である。ハスキンズの『12世紀ルネサンス』(192...
オスカー・ワイルドが絶賛した唯美主義者ペイターの代表作であり、世紀末文学の一つの潮流を作った傑作評論集だ。格調高く凝縮された表現は安易な理解を寄せ付けないが、繰り返し熟読玩味することで、次第にその存在感を顕わにする読み応えのある本である。ハスキンズの『12世紀ルネサンス』(1927年)やホイジンガの『 中世の秋 』(1919年)のはるか以前(1877年)に、フランスの古物語に着目し、中世とルネサンスの連続性を探り当てたことでも知られる。 まず「あらゆる芸術は音楽の状態を憧れる」というあまりに有名なフレーズについて。「形式と内容の一致」、つまり芸術は内容を捨象して純粋な知覚の対象となることを目指すべきであるというのだが、絵画であればそれは色彩に徹することに他ならない。思想や宗教的夢想は絵画の本質ではない。ここから語の交換価値の向こうに言葉の「音色」を追求したマラルメの純粋詩まではあと一歩だ。 ペイターの方法は瞬間の印象をあるがままに捉えようとする。印象批評と言われるものだが、抽象的なもの、理念的なものではなく、そのままでは消え去ってしまう生きた経験や微細な揺らぎに美を見出す。永遠の相の下にではなく、偶然の産物として美を享受する。ミケランジェロの「謎めいた未完成」にその典型的な表現を読み取る一節は本書の圧巻だ。「雪だるまの融けていく感じが、殆どいつも彼の作品の中に潜んでいる。………この未完成こそ、ミケランジェロにとって、彫刻における色にあたるものであった。それが純粋な形を気体化し、硬直したリアリズムを取り去り、形に呼吸・脈拍など生命の効果を与える……」 だがペイターはチェスタトンが批判したような「刹那主義者」では必ずしもない。本書でも芸術における伝統と規範の存在を認めていることを忘れるべきでない。「時間的空間的諸条件以外に、それとは独立に、恒久的な要素、創造的才能に示される趣味の規範がある。この規範は純粋に知的な伝統の中に保たれている。」
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