山峡 の商品レビュー

石黒佐近(著者)

2023/01/29

戦後の山梨、山村でその日を生きる男を時代の強力な力に翻弄される者として描く。満蒙開拓団、シベリア抑留、中国残留孤児……いまの山梨の奥地の人工林をつくった男たちの時代背景が想像される。いささか説明的すぎる嫌いもあるが、林務職員である著者が日々の業務の由来を掘り下げる中で得たのであろう知識が遺憾無く物語の中で語られ、山梨の戦後林政史を知るのにうってつけの読み物である。造林担当者として働くようになった男だが、その後の外材輸入による材価の低下にどう対応して生活してゆくのか、気になるところだ。