牡蠣とトランク の商品レビュー
青い表紙は海を表しているのだろうか。 気仙沼で「森は海の恋人」運動を主催する著者のお話。 序盤は牡蠣養殖を営む著者の体験がゆったりとしたペースで書かれていますが、東日本大地震の話から後半は一気に様相が変わります。 東日本大地震のときの津波の体験は、前半同様に淡々とした文章で...
青い表紙は海を表しているのだろうか。 気仙沼で「森は海の恋人」運動を主催する著者のお話。 序盤は牡蠣養殖を営む著者の体験がゆったりとしたペースで書かれていますが、東日本大地震の話から後半は一気に様相が変わります。 東日本大地震のときの津波の体験は、前半同様に淡々とした文章でありながらも、これでもかというほどに伝わってきます。 著者の奥さんは、チリ地震も経験しているとのことでチリ地震との対比の描写も興味深い。 「チリ地震のときはゆっくりゆっくり引いていき、大きな魚がバタバタと暴れていた。30分近くも引いていたので魚を取りに行く人がいたほどである」 それに対して、東日本大地震では潮の引きは短かったそうです。 また、命からがら津波を逃れ高台に集まった近所の人たちは、著者を含め以下のような様子だったそうです。 「不思議なことにみんな淡々としている。誰のせいでもない、海辺に暮らせばいつかは津波に遭遇するかもしれないという諦めの気持ちがそうさせるのだ」 悲しみは後からじわじわくるものなのかもしれないと思いました。 その後著者たちは、牡蠣のエサとなるキートセロスという植物プランクトンが、震災後の海に「牡蠣が喰いきれないほど」発生していることを見つけ、 牡蠣の養殖業を再開することで、震災後の仮説住宅での生活をいち早く脱却します。 これは災害に遭遇してしまった際に、かなり有効な手段だと感じました。 葬式には、敢えて忙しくすることで遺族の悲しみを紛らわせる意図もあると聞いたことがありますが、 仮説住宅で何もせずに悲しみにくれるよりも、まだ残っているものは何か、よい変化をしたものはないかを探しだして、みんなで何か新しいことをする。 これが心の復興に重要なのではないかと感じました。 本書では、著者たちの育てた牡蠣を通してフランスのルイ・ヴィトン社と交流するところがゴールとして描かれています。 震災前に戻ることはできなくとも、被災後に新しい生活を築くことはできるということを本書から学びました。
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