十字架と三色旗 の商品レビュー
全仏津々浦々、村の学校をめぐって司祭vs共和派教師の熾烈なバトルが繰り広げられる。百年の闘争ののち、ライシテが成立する。
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フランス革命前、教会権力は強かった。知識としては知っていたものの、本書を読んでその強さが奈辺にあったのか、だいぶ実感できるようになった。 全国に網の目のように張り巡らされた教区組織の下、ほとんどの者がカトリック教会の中で生まれ、育ち、娶り(嫁ぎ)、そして死を迎える、それが近代...
フランス革命前、教会権力は強かった。知識としては知っていたものの、本書を読んでその強さが奈辺にあったのか、だいぶ実感できるようになった。 全国に網の目のように張り巡らされた教区組織の下、ほとんどの者がカトリック教会の中で生まれ、育ち、娶り(嫁ぎ)、そして死を迎える、それが近代以前であった。 こうした状況は革命により大きく変化する。教会財産の没収がされたことは良く知られているが、聖職者に対する公民宣誓、さらには聖職放棄や妻帯の強要にまで過激化していった。 「第二章 〈転向〉聖職者の陳情書」は、革命が鎮静化したナポレオン執政期に、聖職を放棄した聖職者たちの復帰の陳情書を検討し、赦免の可否を決定した記録が残されている、それら文書からどういったことが読み取れるかを論じている。数量史的分析も紹介されているが、内容分析の重要性を著者は説く。(こうした史料、不謹慎な言い方になるが、面白いだろうなあ) 第三章以降においては、それまで宗教が担ってきた役割の中でも、特に教育を巡って、共和派とカトリック教会の間で繰り広げられたヘゲモニー闘争の状況が描かれる。新しい政治文化の担い手として、"村の司祭"と"田舎教師"のいずれが勝つのか? 地方地方でずいぶん状況は異なるものであったこと、帝政期、復古王政期、七月王政期、第二共和制期、第二帝政期、そして第三共和制期へと、教育の世俗化が必ずしも直線的に進んだ訳ではないこと、初等教育の無償化、教師の待遇改善、教会系学校の存廃問題等、教育改革を巡って熾烈な争いがあったことが説明される。 様々な争いや苦難を経て、1905年に成立した政教分離法によって、ようやく法的には世俗的国民国家が完成する。ライシテ=非宗教性という国家原理の確立である。 こうした長年にわたる党派的対立があるからこそ、私学への公的助成をいかにするかが、政治的な一大争点になる事情が多少なりとも分かってきた。(日本では憲法問題ではあっても、デモが行われるとは考えづらい。) 最終章、そして文庫版では1989年に起きたイスラム・スカーフ事件をきっかけに問題が大きくなってきた、聖俗不可分のイスラムとの共存が可能なのか、可能だとして、共存はいかに在るべきかについて、著書の考えが述べられる。 歴史上の終わったことではなく、現代にまで通じる重い課題なんだと改めて感じた次第。
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本書では、革命期から現代までの国民統合をめぐる共和派とカトリック教会の文化的ヘゲモニー闘争のあとを辿る。 文庫版では、イスラム系移民の文化統合に関する補論を付し、ライシテ(脱宗教化)の未来を再考。
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フランスのライシテを考えるために。歴史学の立場から、共和国の理念とカトリックの攻防を巡る過程を記述。
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