現代精神医学の概念 の商品レビュー
中井久夫さんがずいぶん言及するので、サリヴァンを読んでみることにした。 これは1939年の講義を元にしたもので、「現代精神医学」と言ってもかなり古い。 しかし、これは素晴らしい本だった。私のそれとよく似た考え方が緻密に展開されていて、久々に感動した。 サリヴァンは何派に当たるのか...
中井久夫さんがずいぶん言及するので、サリヴァンを読んでみることにした。 これは1939年の講義を元にしたもので、「現代精神医学」と言ってもかなり古い。 しかし、これは素晴らしい本だった。私のそれとよく似た考え方が緻密に展開されていて、久々に感動した。 サリヴァンは何派に当たるのかよくかわらないが、少なくとも器質還元主義者ではない。むしろ心理主義、力動心理学、精神分析学派に近いだろう。ただしフロイトの「性」や「リビドー」の理論に対しては簡潔に批判している。それに、実質「無意識」について語っていながら、なぜか「無意識」という言葉を使わない。 サリヴァンは「精神医学とは、二人以上の人間を包含し人と人との間において進行する過程を研究する学問である。・・・一個の人格を、その人がその中で生きそこに存在の根をもっているところの対人関係複合体から切り離すことは、絶対にできない」(P20)と語る。 ここでの「人間関係」は、人間そのものの本質をなしているものであって、「生体とは、物理化学的世界の一部が自己維持的な構造と化したものであって、環境と複合体を作りその活性によって生命現象を発現させている」(P46)という際の、切り離し得ない環境を示すものだろう。 特に素晴らしかった本書前半では、生後の乳児期から青春期にかけてまでの、人間形成の諸段階について、「人間関係」の視点から問い直される。 第四講では精神疾患的なさまざまな病像、第五講では精神医学の治療における「面接」の両方を中心として書かれている。これら後半部においては、やはり「古さ」を感じざるを得なかった。 とりわけ、当時は向精神薬がまだ知られていなかったらしいし、話が生理学的な面に及ぶと、やはりどうしようもなく時代を感じてしまう。 しかし、薬さえあれば精神病は治ると思っている勘違い素人もいるけれども、それらは無論、せいぜい症状を抑制したり、睡眠や心的安楽を保障しやすくするだけであって、それ自体に「病気を治す」力はない。 心理療法、少なくともこの本で語られた「面接」は今でも非常に重要な、欠かせない部分であろう。 サリヴァンが「人間関係」というとき、相手は必ずしも生身の人間であるとはかぎらず、患者の想像上の存在、観念化した対象である場合も含むようだ。この点をさらに掘り起こせば、私の考え方にもっと近づくかもしれない。 「現代の」医者、医学生にはちょっと古すぎる本かもしれないが、その奥底にある根本的人間理解の深みをみるならば、この本はもっと広く読まれていいのではないかと思う。
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