人妻は夜に咲く の商品レビュー
過去と現在から未来を描く「浮気」と「不倫」
ただ一言「素敵な作品だった」と申し上げたい。何やら妖しい雰囲気も滲むタイトルだが、文字通りと受け取るべき2人の人妻との情交を通じた「対話の物語」と称したい。かつての恋人(今は別の男の妻)との苦い過去を経て落ちぶれた現在を癒してくれていた隣人妻と描く新たな未来という流れが素晴らしく...
ただ一言「素敵な作品だった」と申し上げたい。何やら妖しい雰囲気も滲むタイトルだが、文字通りと受け取るべき2人の人妻との情交を通じた「対話の物語」と称したい。かつての恋人(今は別の男の妻)との苦い過去を経て落ちぶれた現在を癒してくれていた隣人妻と描く新たな未来という流れが素晴らしく、2人に絞ったヒロインを約3:2の比率で、メインとサブの違いも出しつつそれぞれの心情をもきっちり描く巧みさが感じられる。単なる浮気や不倫にはせず、「その結果どうする」といったことに言及する、むしろ「その後」に焦点をあてることで結末を良いものにしている。 現実味のある状況の中で、夫を裏切ることになる憂いから覚悟を決める背徳、そしてその後に芽生える新たな思いという「今後の覚悟」が、妻となってしばらく失いかけていたオンナの再発見という形で官能的にも発露する。刹那の情事かと思わせたところで次は人妻の方から誘いがあり、情交を重ねることで1人は夫との再出発へと思い至り、1人は冷め切った夫婦仲に見切りをつける覚悟に至る。浮気で留まる人妻と不倫から新たな伴侶(主人公)との再出発を望む人妻。オンナとして夜に咲いた人妻はそれぞれ再出発を期するというテーマがここに見えてくるのである。主人公の密かな想い人でもあったメインの人妻が終盤で望んだ旅の行き先はその覚悟の表れと言えよう。 浮気や不倫を肯定する訳ではないものの、にっちもさっちもいかなくなった夫婦の解決へと向けた糸口とし、異なる2つの道筋を示しつつどちらも再出発とする解釈にはなるほどと思わせるものがあった。そして、これまで報われなかった主人公にもたっぷりと愛情を注ぐだけの、そして己の自信にも繋がる相手が現れたことで冒頭に記した「素敵な」読後感へと至る良さがあった。フィクションだから許される有意義な浮気や不倫とするならばさすがの官能小説と言わねばなるまい。 余談ながら前夜の情交を通じて束の間の押しかけ妻と化したメインの人妻が見せた積極的な一面は、その貪婪な妖艶さが闇夜に光る官能的名場面だったと付記しておきたい。清楚な人妻が大胆に豹変するいやらしさに満ちていた。
DSK
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