幸せのグラス の商品レビュー
自意識過剰気味の主人公の一人称小説。 主人公の知らないうちに、周囲の人たちの人生はシニカルに進み続けていて、面白かった。
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主人公の女性、ウィルメットの独り言は、うつうつとしたロンドンの天気のようにいつまでも晴れることがない。そう言ってしまうと、彼女が如何にも引きこもりがちで誰とも親しく交われない人のように響いてしまうが、そうではない。ウィルメットは社交的で、おしゃれにも気を使い、英国国教会の務めもこ...
主人公の女性、ウィルメットの独り言は、うつうつとしたロンドンの天気のようにいつまでも晴れることがない。そう言ってしまうと、彼女が如何にも引きこもりがちで誰とも親しく交われない人のように響いてしまうが、そうではない。ウィルメットは社交的で、おしゃれにも気を使い、英国国教会の務めもこなし、同居する不可知論者の義理の母とも連れだって出掛けるような人物である。それに加えて、いわゆるハイソな人としてのチャームもある。それを魅力的と思えるか否かは英国式の慣習にどれだけ親しみがあるか否かということになるのだろうけれども。 うつうつとしたという印象は、主人公の女性が周りには冷やかな印象を与えるほどに決して他人に自分の思いや考えをはっきりと口にはしない、ということによるものだ。それでいて読者には事細かに気持ちの揺れや感情を訴えてくる。そこに嫌みを感じるか、それとも現代的な文学的興味をそそられるか。それによって本書の評価は大いに異なることになる。 好き嫌いはあるとしても、典型的で伝統的な英国人がどんな素養を身に付けていて、その上でどんな価値観に基づいて物事を判断し日々を暮らしているか、それを本書はどちらかと言えば赤裸々に教えてくれる。面と向かって本心を分かりやすくさらけ出さない人々の本音を知るにはよい経験かもしれない。
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