進歩がまだ希望であった頃 の商品レビュー
題名に惹かれて読んだ。 『フランクリン自伝』と『福翁自伝』との比較をとおして,ベンジャミン・フランクリンと福沢諭吉との思想の類似性を誠実に追った対比評伝。 もっとも,著者の目的はその類似性の証明ではなく,自伝文学の出版界における価値向上なので,類似性は比較例証にとどまっており...
題名に惹かれて読んだ。 『フランクリン自伝』と『福翁自伝』との比較をとおして,ベンジャミン・フランクリンと福沢諭吉との思想の類似性を誠実に追った対比評伝。 もっとも,著者の目的はその類似性の証明ではなく,自伝文学の出版界における価値向上なので,類似性は比較例証にとどまっており,その方面を期待した者にとっては物足りなさを禁じえない。 たとえば,両者の影響関係については2ページ(実際は10行にも満たない!)ほどしか割かれていない。 ここまで二人の人物の考え方が似通うと,なんらかの影響関係を読者は勘繰りたくなるのだが,著者はそのことについて触れない。「判然としない」の一点ばりである。 それを明示する直接的な文献がなかったとはいえ,せめて,あの手この手を使ったまとまった推測が読みたかった。 本書にはほかにも難点はあるが,にもかかわらずおススメである。 なぜなら,内容がとにかく読ませるからである。 さきほども触れたように思想的類似性の立証がねらいではないので,本書には体系性がない。 しかし,そのおかげで著者はふたつの自伝から縦横無尽にエピソードを拾い,つき合せ,近代史というマクロな資料で補いながら,話を自由に展開させているので,読者は最後まで“新しい発見”を味わうことが出来る。 読んで損はしない一冊であることは間違いない。
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