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偶然と運命 九鬼周造の倫理学 の商品レビュー

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2023/12/08

九鬼周造の思想の全体像についての考察をおこなっている本です。 著者は、九鬼の主著である『偶然性の問題』を中心とする彼の思想を正しく理解するためには、彼の時間論とのつながりを明らかにしなければならないと考えています。九鬼は、東洋の回帰的時間をめぐって哲学的な考察を展開しており、そ...

九鬼周造の思想の全体像についての考察をおこなっている本です。 著者は、九鬼の主著である『偶然性の問題』を中心とする彼の思想を正しく理解するためには、彼の時間論とのつながりを明らかにしなければならないと考えています。九鬼は、東洋の回帰的時間をめぐって哲学的な考察を展開しており、そこではあらゆる瞬間が時間のはじまりであるとともに終わりであるという意義をもちうるということが示されていました。そして、このような時間論をもとにして、偶然性をめぐる九鬼の議論そのものの解釈へと著者は考察を進めています。 偶然性をめぐる九鬼の議論は、しばしば唯美主義的な生きかたを説くものとして理解されてきました。しかし著者によれば、九鬼は偶然性と必然性がひとつになるところに倫理的な意義を見いだそうとしていたとされます。こうした立場に立って、著者は九鬼のもうひとつの主著である『「いき」の構造』に展開されている思想と、偶然性についての思想とのあいだに差異が存在すると指摘します。すなわち、「いき」はあくまでも可能性を可能性にとどめるような生きかたであったのに対して、偶然性の倫理学では偶然性を必然性として受け止めなおすことが主張されていると理解されることになります。 最後に著者は、このような偶然性の倫理学が、「自然」という主題をあつかった九鬼の文芸論および日本文化論へと継承されていったことを明らかにすることを試みています。

Posted byブクログ