愛国者がテロリストになった日 の商品レビュー

早坂隆(著者)

2015/07/28

安重根の物語である。筆者の早坂隆さんは、安重根に対しても、その犠牲になった伊藤博文に対しても、色眼鏡をかけず、事実に基づき、安重根が愛国者であったのか、テロリストであったのかを探っていこうとする。結論は、本のタイトルにもあるように、本来愛国者であった安重根が、いかにしてテロリストになっていったかというものである。ぼくも人から安重根が愛国者で、伊藤は悪人だと言われたら、首は振れない。伊藤は朝鮮を保護国化したあとの初代統監であった。この保護国化は、朝鮮をめぐって清、ロシア、日本がせめぎ合うなかで列強が認めた朝鮮安定策である。朝鮮は清、ロシア、日本に挟まれ、あるときは日本に、あるときはロシアに、またあるときは清に助けを求めつつやってきたが、このままではいつまでたっても近代化はおぼつかない。列強が日本の保護国化、さらには植民地化を認めたのもそのためであった。要するにどこかが保護国化しなければやっていけない状態にあったのである。それは日本からすれば、近代化を助けようと援助した福沢諭吉がのちに失望し、脱亜入欧に走ってしまうほどの状態に陥っていたからである。しかし、どこがやっても、朝鮮人からは恨みをかうことになる。なぜなら、自分たちの政府はいくらひどくても外国の政府に征服されるよりはましだからである。よく言われることだが、伊藤は植民地化には反対であった。それは、植民地化すれば、朝鮮に対し多くの財力と人力を注ぎ込む必要があったからである。しかし、かれの暗殺後、逆に植民地化は加速されてしまった。安重根にすれば皮肉なことだった。早坂さんは血気の人で、ハルビンの安重根記念館、ソウルの記念館を周り、そこにいる人に、是非を問いただすだけでなく、論争まで挑んでしまう。しかし、今の韓国の人にいくら言っても無駄というものである。それはかれらの歴史認識が、柔軟性を欠いているからである（同じことが中国についても言える）。侵略、植民化されたことを恨むのは当然だが、なぜそうなったか、自らも歴史に学ぶ必要があるのではないか。