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諸個人の社会 新装版 の商品レビュー

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2015/05/17

書店で気になって何気なく買った本だったが、これはアタリだった。 著者ノルベルト・エリアスは社会学者だが、哲学や精神分析などにも通暁している。ユダヤ系ドイツ人で両親はナチスに殺されている。読んでみてこの人はただ者ではないなと感じた。 本書は全く異なる時期に書かれた3つの部分から成る...

書店で気になって何気なく買った本だったが、これはアタリだった。 著者ノルベルト・エリアスは社会学者だが、哲学や精神分析などにも通暁している。ユダヤ系ドイツ人で両親はナチスに殺されている。読んでみてこの人はただ者ではないなと感じた。 本書は全く異なる時期に書かれた3つの部分から成るが、特に最初の文章には共感するものが大きかった。 社会とは個人と個人との関係性そのものであるという指摘は、木村敏氏の「あいだ」の哲学を想起させる。木村氏の場合は「あいだ」イコール「自分」になり、イコール「社会」であるエリアスとはちょっと違うようでいて、結局おなじことを言いたいのではないか。絶え間なく変動する諸関係の構造体というこの思想は卓越したものと思う。 本書は単なる社会学というよりは、大半が社会哲学と呼ぶにふさわしいものだ。読みながら、浅はかな物の見方を批判する方法を学ぶことができる。 第三部では「われ=アイデンティティ」と「われわれ=アイデンティティ」との両者のバランスが、西洋社会にあって変容してきたことが論述される。特に20世紀以降は「国民」なる意識が「われわれ=アイデンティティ」として強固な物となった。エリアスは国民国家とは「戦争の中で、戦争のために生まれた」と書いている。 この章の最後の部分でエリアスは「われわれ=アイデンティティ」は将来「人類」として統合されなければならない、という希望を語っており、それは当分はありそうにない壮大な希望ではあろう。 こうしてみるとアイデンティティとは意識が試みる自同性的「統合」の様々なレベルである。逆に言えばその統合を分解すれば、「主体」は消滅する。原子論・粒子論的には万物の個体性が消失してしまうのと同じように。 この本は「個人」「社会」「われわれ(集団)」といった概念を洗い直してくれる。これは素晴らしい一冊だった。

Posted byブクログ