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夜蜘蛛 の商品レビュー

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2019/02/17

 郊外への日帰り出張の行き帰りで読み終える。田中慎弥という作家に対する評価の難しさを確認させられた。    日中戦争に従軍し、中国大陸のどこか(場所は特定されない。中支だろうか?)で右足を撃ち抜かれて後送、その後も戦場記憶を抱えたまま生きた父と、その父にひょんなことから「死ぬこと...

 郊外への日帰り出張の行き帰りで読み終える。田中慎弥という作家に対する評価の難しさを確認させられた。    日中戦争に従軍し、中国大陸のどこか(場所は特定されない。中支だろうか?)で右足を撃ち抜かれて後送、その後も戦場記憶を抱えたまま生きた父と、その父にひょんなことから「死ぬことの意味」を与えてしまったのではないかと思い悩みつづけた息子の物語だが、作中に散種された断片的なイメージがどうもメタファーになりきれていない気がして仕方がない(戦場記憶と空襲の記憶、戦場での妻の写真の紛失と妻の早逝など、律儀に記号の因果関係が押さえられているだけに、余計にそう感じるのかもしれない)。  ヒロヒト葬儀の日に自分もくびれて死ぬ男を描いたこの小説は、「父の死」という謎を手渡された「息子」の物語という意味で、まぎれもなく『こころ』の影響圏にある( というより、乃木希典の死のことを教えられて「自死」に思い到る「父」は、あからさまに『こころ』そのままだ)。天皇の死とは本質的に無関係であるはずの市井の男が天皇の死に合わせて死ぬと、誰もが森?外の『興津弥五右衛門の遺書』ではなくて『こころ』の方を思い出してしまう。かくも『こころ』とは罪深い作品なのだ。これが漱石の罪でなかったら、いったい何だというのか?

Posted byブクログ

2015/05/29

150529読了。田中さんは芥川賞受賞作を読んでから好きになったみたいで、今回が3作目だ。 夜蜘蛛も父と息子の話であり、巻末の解説にある通り「父親殺し」に通ずるものがある気がする。戦争を生き残り年老いていく父が最期にとった決断が、私にはなんだか『こころ』の先生のようだと思ってしま...

150529読了。田中さんは芥川賞受賞作を読んでから好きになったみたいで、今回が3作目だ。 夜蜘蛛も父と息子の話であり、巻末の解説にある通り「父親殺し」に通ずるものがある気がする。戦争を生き残り年老いていく父が最期にとった決断が、私にはなんだか『こころ』の先生のようだと思ってしまった。終盤に同じく天皇崩御の話が出てくるからだろうか。 本作の大半がある老人の手紙という形だが、びっくりするほど自然で、月並みで、しかし巧妙な進行だと感嘆した。 田中さんの文庫本は駅ナカの小さな書店にも売っていることが多い。また買ってしまいそうだ。

Posted byブクログ