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タルト・タタンと炭酸水 の商品レビュー

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4件のお客様レビュー

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2024/03/12
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 日常を描く短歌。声に出して読んで浮かび上がる風景を想像しながら楽しむような本。解説に「どこかで見たような懐かしさに包まれつつ、初めて見たような未知の感覚が柔らかく刺激する。これまでなにげなく見過ごしていたものや通りすぎていたもの、忘れ去っていたものが、鮮やかで清々しい色彩をともないながら、よみがえるのである」とあるようにまさしく、見たことあるものだけれども、未知の感覚と過去の記憶が鮮やかな色彩を伴って蘇る感覚に入り浸っている。  どうしてもタルト・タタンが食べたくなって、売っていると思われるカフェに行ったがなかったので残念。どこで食べられるのだろう。 ==== ・旧市街を何も話さず歩きたい足音のよい道を選んで(p.16) ・雲が白い夏の初めの風の朝きみ柔らかな瞼を開く(p.30) ・キャベツ色のスカートの人立ち止まり風の匂いの飲み物選ぶ(p.31) ・夏の海タルト・タタンの向こう側まなざし君の手の上で揺れ(p.32) ・川べりに止めた個人タクシーのサイドミラーに映る青空(p.47) ・豆腐屋の前の溝から吹いている湯気の匂いを犬もかいでる(p.55) ・雲間から青酸カリの致死量のような雨滴が右頬を打つ(p.78) ・初めての午後に花咲く木の上に白い日射しがやわらかく舞う(p.95) ・留守番をしている朝の庭に出て雪と雨との境界を見る(p.124) ・東山魁夷の森の色をしたコートを羽織り君立っている(p.126) (解説:東直子)竹内さんの作品には、喜怒哀楽を直接描写した作品は少ない。風景画を得意とする画家の作品に似ていて、そこには常に穏やかな光が注ぎ、かすかな風が吹く静かな情景が広がっている。どこかで見たような懐かしさに包まれつつ、初めて見たような未知の感覚が柔らかく刺激する。これまでなにげなく見過ごしていたものや通りすぎていたもの、忘れ去っていたものが、鮮やかで清々しい色彩をともないながら、よみがえるのである。(p.130)

Posted byブクログ

2023/09/14

眩しい夏と味わい深い秋の、共存を思わせるタイトルと、東さんの"清々しい言葉の深みへ"の帯に惹かれて。 竹内亮さんは弁護士で、東直子さんの講座で短歌を始めたと記されていた。 歌集には、儚く美しい季節や瞬間が並んでいた。 「御茶ノ水二つの橋で向き合って水面流れ...

眩しい夏と味わい深い秋の、共存を思わせるタイトルと、東さんの"清々しい言葉の深みへ"の帯に惹かれて。 竹内亮さんは弁護士で、東直子さんの講座で短歌を始めたと記されていた。 歌集には、儚く美しい季節や瞬間が並んでいた。 「御茶ノ水二つの橋で向き合って水面流れる花びらを見る」 「アイスティーの上澄みに似た空を見て初めて君に気持ち伝える」 「暗転の舞台で出番待っている左小指を研ぎ澄ましてる」 「編み物の初めのように先が長い二人静かに前を見ている」 「キッチンで知らない歌を口ずさみ君は螺旋のパスタを茹でる」 「春の雨は草の匂いを漂わせ咲きに傘を閉じたのは君」 「星の夜は光の呼応の音がするランゲのような君と歩いて」 「非常口のランプを消して歌い出すどこからだって逃げられる部屋」 解説の冒頭で東直子さんが、 「風景画を得意とする画家の作品に似ていて…」と書かれていて、 あぁ、それそれ!といきなり解決する。 そうだ、風景画の前に立った時のような感覚だ。 それが、いつか見た光景のように、遠くの明るい場所でキラキラしている。 いや、見た光景って正しくないのかな…。 自分は目にしていたはずなのに、その時は意識できなかった美しき瞬間を、 竹内さんの選んだ言葉とリズムが呼び起こしてくれる。 そのいつかの光景が遠く懐かしいんだな。 そして東直子さんの解説が素晴らしい。 また、ご本人によるあとがきにある「スマートフォンのメモ帳に…」というくだりは、短歌を作っている皆さんの多くが共感しそうな内容だった。 書肆侃侃房の"新鋭歌人シリーズ"や"現代歌人シリーズ"が楽しい。 集めていきたいシリーズの1つだ。

Posted byブクログ

2021/02/26

歌集を読むことを習慣にしたくて手にとってみた本。 タイトルの印象のとおり、透明感のあるきれいな風景写真を見ている感じ。 とても初々しい。 ☆好きな歌5首。 (私が選ぶとたぶん、他の人があまり選ばないだろう歌ばかりになる) ・夜はふけてトイレに座り床を見る頭の影はとても大き...

歌集を読むことを習慣にしたくて手にとってみた本。 タイトルの印象のとおり、透明感のあるきれいな風景写真を見ている感じ。 とても初々しい。 ☆好きな歌5首。 (私が選ぶとたぶん、他の人があまり選ばないだろう歌ばかりになる) ・夜はふけてトイレに座り床を見る頭の影はとても大きい ・キーボードの上に寝そべる三毛猫はようやく書いた一行を消す ・ひまわりの種を千粒買いました近所の道にそっとまきます ・花の下を歩いたときのなぞなぞの答を君は今も言わない ・終電の一駅ごとに目を開けてまた眠りゆく黒髪静か

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2015/06/22

「夏の海タルト・タタンの向こう側まなざし君の手の上で揺れ。」「濃紺のワンピースから現れた白い曲線なににも触れず。」「白シャツの左の袖に落ちてきた緑の汚れ 森が匂った。」「清潔な食卓に載る一椀のスノウフレイクかすかに溶ける。」「参道のベンチで君は凛として包まれている木漏れ日の中。」...

「夏の海タルト・タタンの向こう側まなざし君の手の上で揺れ。」「濃紺のワンピースから現れた白い曲線なににも触れず。」「白シャツの左の袖に落ちてきた緑の汚れ 森が匂った。」「清潔な食卓に載る一椀のスノウフレイクかすかに溶ける。」「参道のベンチで君は凛として包まれている木漏れ日の中。」「シダの茂る森で言われた「ありがとう」地下水脈の音に似ていた。」 自然な空気が静かに健やかに流れていくようなたおやかさがある。しっとり穏やかな時間を過ごすことができた。

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