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テキヤと社会主義 の商品レビュー

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2024/02/28

『テキヤと社会主義』 猪野健治 2015年 筑摩書房 井上則人の装幀が印象的な本書は、 祭りや縁日などに出店する 露天商、テキヤまたは香具師(やし) と呼ぶ者たちが1920年代に傾倒した 社会主義運動に関わった姿を取りあげている。 「生まれも育ちも関東、葛飾柴又〜」で始まる ...

『テキヤと社会主義』 猪野健治 2015年 筑摩書房 井上則人の装幀が印象的な本書は、 祭りや縁日などに出店する 露天商、テキヤまたは香具師(やし) と呼ぶ者たちが1920年代に傾倒した 社会主義運動に関わった姿を取りあげている。 「生まれも育ちも関東、葛飾柴又〜」で始まる 『男はつらいよ』での仁義をきって自己紹介する 寅さんの人気ぶりは今でも健在だが、 寅さんの職業は香具師だ。 だが寅さんのような一匹狼は、 実は存在しないらしい。 香具師の業界は親分絶対支配の社会であり そこに入るにはいずれかの一家 あるいは組の門をたたいて、 親分の承認を得てその一員となるしかない。 香具師の世界に入ってくる者は、 本当に生活に追い込まれ切羽詰まった人、 倒産や借金、長い失業、それらが重なって、 もうどこにも行きようがないという人が多い。 入門を許されるとざっと三年間は 「稼ぎ込み」と呼ばれる見習い期間に入り、 親分か兄貴分の自宅に住み込み、 家事一切、掃除、雑用の類いを押しつけられる。 さて、 香具師が関わった政治活動の中で、 大きなウエイトを占めるのが、廃娼運動だ。 廃娼運動は様々な形があるが、 香具師が目指したのは借金のかたに 遊郭に売られた娘たちが、それに縛られることなく、 自由に自分の意思で廃業できることを知らせ、 助け出すことだった。 また、 徴兵義務拒否等を謳った 反戦・反軍ビラの頒布なども行なっていた。 こういった社会主義運動を おこなっていたテキヤだが その露店の数が急増した時期があった。 1923年9月1日(大正12年)に起こった 関東大震災が発生した時だ。 露店営業の総数は、首都圏が壊滅的打撃を受けた 関東大震災直後から驚異的に膨らんだ。 首都圏の産業が直撃され、 住居と仕事を失った人々が、 大量になだれ込んだからである。 大震災までは露天商の総数は 全国で30万人と言われていたが、 その後震災被災者の流入で一挙に60万人に達した。 だがしかし、その関東大震災後の不景気や 旧体制への回帰を謳った反動思想、 固まりきれてない思想と香具師たちの 宿命ともいえる営業の流浪性により 香具師たちの社会主義運動は あっけなく終わりを迎えた。 第二部では、 アナキスト香具師、高嶋三治の実像から、 大杉栄らが憲兵らにより虐殺された甘粕事件、 それに報復を誓ったギロチン社の活動を中心に 怒涛の展開を見せていく。 大杉栄夫妻だけでなく思想的には何の関係もない 大杉の甥の橘宗一(6歳)が、 一緒にいたという理由だけで絞殺され、 しかも犯行がバレないよう遺体は 大杉夫妻とともに古井戸に投げ込まれた この甘粕事件はアナキストたちを激昂させた。 残念ながら高嶋三治やギロチン社の復讐戦は 失敗の連続に終わり逮捕者が 続出するハメになった。 ギロチン社の中心メンバー 古田大次郎や中浜鉄は死刑となり 高嶋三治も刑務所に収監されていた。 だがある日、突然独房の扉が開いた。 そこには三宅正太郎裁判長の姿があった。 三宅は高嶋三治を説得に来たのだった。 アナキズムをやめ娑婆で自由に生きること、 自分の友人の仕事を手伝うことを説いた。 そして、名古屋高裁の大法廷で 三宅正太郎裁判長は自ら高嶋三治に 無罪判決を言い渡した。 ちなみに三宅裁判長が高嶋三治に言った 「友人」とは博徒本願寺一家総裁、 高瀬兼次郎のことだった。 今では到底考えられないことだが、 この時代、やくざの親分と親交のある 判事や検事、軍関係者は少なくなかったのだ。 その後、高嶋三治は名門博徒一家の客分に迎えられ 劇場支配人の顔を持つようになる。 最後のまとめとなるが、 映画の中の寅さんとは全く違う、 反軍・廃娼を訴え、大杉栄らが虐殺された 甘粕事件への報復にまさに命を賭した男たちの姿を 垣間見ることになった。 香具師たちはヤクザたちと同様に 衰退の一途を辿っている。 祭りや花火大会などで活気をみせる 賑やかな光景が消滅する日もそう遠くない。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ⚫︎目次情報⚫︎ プロローグ 第一部 テキヤの社会主義運動  1 香具師社会の深層  2 和田信義と添田知道  3 運動と弾圧  4 てきやの廃娼運動と演歌師  5 関東大震災と露店ラッシュ  6 てきや社会の再編 
第ニ部 アナキスト香具師とギロチン社  1 高嶋三治の実像  2 大杉栄虐殺とギロチン社  3 東海の顔役
 エピローグ  1 てきや社会の特殊性  2 戦後のてきや社会  3 てきや社会の行方 参考文献 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

Posted byブクログ

2015/06/14

テキヤ=露天商と社会主義者は表面上相容れないように思えるが、主義者が隠れ蓑にするには格好の場所だった。 大正末期から一気に盛り上がり、戦時体制下で壊滅したアナキストを中心に当時のテキヤとアナキストの関係を描いたノンフィクション。 連載ものなので同じ説明が何度も出てくるが、終盤の高...

テキヤ=露天商と社会主義者は表面上相容れないように思えるが、主義者が隠れ蓑にするには格好の場所だった。 大正末期から一気に盛り上がり、戦時体制下で壊滅したアナキストを中心に当時のテキヤとアナキストの関係を描いたノンフィクション。 連載ものなので同じ説明が何度も出てくるが、終盤の高嶋三治とギロチン社の話は迫ってくるものがあった。

Posted byブクログ

2022/06/01

1920年代の寅さんたち、とサブタイトルがついているが、寅さんのような一匹狼というのは存在しなくて、香具師というのはみな親分を持ち、一家を形成していたそうだ(過去形ではないのだが)。 で、どうしてテキヤと社会主義、なのか。ここでいう社会主義とは、アナキズムを含む広い意味での...

1920年代の寅さんたち、とサブタイトルがついているが、寅さんのような一匹狼というのは存在しなくて、香具師というのはみな親分を持ち、一家を形成していたそうだ(過去形ではないのだが)。 で、どうしてテキヤと社会主義、なのか。ここでいう社会主義とは、アナキズムを含む広い意味でのことだ、というけれど。香具師の社会主義活動の記録は全然ないのだと。 著者が思うに、ビラを撒くなどの活動は、その中身よりも、運動に参加するそのものに魅力を感じていたのではないか、と。親分や兄貴分がそういう活動をしていたら、へい手伝います、ということもあっただろうし。 ただ、本格的に活動しようとすると、そういう関係を乗り越えないければいけない。香具師は活動よりも義理を守った、故に社会主義活動も下火になっていった、のかもしれない。 社会主義という言葉がデカデカとついていて読者を選ぶかもしれないが、まだ100年も経たない、なんとなく知っている過去にあった、清濁併せ呑み、仁義を守り、知恵を絞って商売をしていた人たちの話、として読んでも十分に応えてくれるのだった。

Posted byブクログ