駅をデザインする の商品レビュー
筆者は 1972 年から営団地下鉄の案内サインを設計した。本書のテーマは、駅に関し、大きく案内と空間構成から成っている。 案内については、営団地下鉄での成果をまとめた設計マニュアルが、全国で統一されている方がわかりやすいという思想のもと提供され活用された。 その後、横浜駅で乗り...
筆者は 1972 年から営団地下鉄の案内サインを設計した。本書のテーマは、駅に関し、大きく案内と空間構成から成っている。 案内については、営団地下鉄での成果をまとめた設計マニュアルが、全国で統一されている方がわかりやすいという思想のもと提供され活用された。 その後、横浜駅で乗り入れ五社を一体として捉えた案内が日本で初めて実現したが、その過程でも、JR 東日本の上位層から他社線の案内を拒絶する偏狭な妨害がなされたことが紹介されている。JR 他社でも、他社線への乗換案内より自社系列ホテルや商業施設の案内を優先し、利用者が必要とする案内がなされていない例が示される。 また、営団地下鉄が民営となった時、広告のために案内システムが破壊され、回復困難な状態にあることも知らされる。 空間構成は、日本ではごく僅かな例外を除いて無視されてきており、営団地下鉄はその最たるものであることが諸外国との対比で示される。 利用者にとってわかりやすい構成を仙台地下鉄で提案したら、建設省につぶされた事例が紹介される。その後、首相官邸の隣の営団駅で、理想に近い空間を作れた事例が示される。ここは時間を経てもその状態を保っている。 その後、福岡市の地下鉄新線、みなとみらい線、りんかい線などが、利用者の視点に立った駅設計をしている事例が紹介される。 最後に、首都圏を主な事例として、日本の鉄道の路線名称を中心とする案内が、地域限定の「ローカルコード」にこだわるあまり、外部の利用者にはほぼ理解不能である状況が指摘される。 一例として、田園都市線―半蔵門線―東武伊勢崎線と直通運転が行われているのに運営者ごとの名称が使われていることが挙げられる。利用者にとっては一つの線であり、その運転系統に識別子を付ける方がはるかにわかりやすいことが提案される。 さらに、日本語話者以外に理解されるユニバーサルコードとするためには、使えるのは英字 A-Z と数字 0-9 の 36 文字とごく少ない色だけであることが指摘される。首都圏の事情を考え、英字は一文字だけで 7-8 種に限り数字は二桁まで使う路線コード体系が提案される。 空間構成は一朝一夕に変えられるものではないが、路線コードを含む案内体系は、旅行客だけでなく現にその街に住む利用者への案内も含めて早急に体型立てる必要があることに同感である。このためには、高い視点でのマスタープランが必要であることが指摘されている。 著者が適任であると思う。
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僕は仕事柄全国を鉄道で旅をしていて思うことがあるが、日本の駅は大抵醜い。東京駅や、新宿駅に見られるようにそもそも構造が人に親切でなく(東京駅などまだ新線増設でさらに駅構造が立体化される!)、それに輪をかけるように不快な空間設計、広告なのか何なのかわからない案内・誘導サインにあふれていて、一体自分がどちらに向かっていって良いかわからない。誰でも大きなターミナル駅で迷った経験の一度や二度あると思うが、それはあなたが悪いわけでも田舎から出てきたお上りさんだからでもなく、駅が悪いのだ。まさしく、列車に乗ってもらうのではなく、乗せてやるという鉄道会社の意識そのものが駅自体に現れている。 そうした酷い駅の中でも感心するような駅が有り、みなとみらい線各駅や、改装後の横浜駅は迷うこともないし、比較的快適だと思っていたら、著者が案内サインや空間設計で関わった案件だった。 本書は、過去の営団地下鉄の案内サインの基本設計(東京メトロになってから醜いけど)やみなとみらい線、つくばエキスプレスで同様の仕事を行い、公共交通機関の案内・誘導サインや空間設計に関わって来た著者による、駅設計への提言を一般向けに記した物だ。 著書の中でも述べられているが、都市のターミナル駅を鉄道会社にのみあるいは会社毎に管理、設計させることに社会的な資本の損失がある。駅周辺の都市再開発が行われることが多いが、駅その物がそこに組み込まれることは先ず無いが、駅そのものの快適さや構造が都市計画自体に組み込まれ、都市と駅での思想が統一されたデザインの上に成り立つことが理想だろう。ダンジョンなどといって面白がっている場合ではないのだ。それは単純にこの国の文化的な後進性の結果でしかない。 今後、高度成長期に建設された様々な公共施設が(それには駅舎も含まれるはずだが)老朽化し、大規模な補修や作り直しが必要となってくる。そうしたときに本書で指摘された視点や考え方が反映され、つまらなくて苦痛な通勤の通過点でなく、この国の文化を表すような空間になってくれれば良いと思う。そうなれば僕くの出張も少しは楽しくなってくるはずだ。
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営団地下鉄やつくばエクスプレスなど、さまざまな駅のデザインに長く携わってきた著者。その制作物を振り返り、デザインの意図をまとめた一冊。 何かを提案する時には、「必然性」が必要だということがよくわかった本だった。決してデザインに限ったことではないけれど。どうしてここは赤色なのか、...
営団地下鉄やつくばエクスプレスなど、さまざまな駅のデザインに長く携わってきた著者。その制作物を振り返り、デザインの意図をまとめた一冊。 何かを提案する時には、「必然性」が必要だということがよくわかった本だった。決してデザインに限ったことではないけれど。どうしてここは赤色なのか、この形状にした意図は何か、など、すべてに筋が通っていなければ、プロの仕事とは言えないのだと。 著者はまず「駅の役割とは何か」というところから問いかけを始める。電車に乗れれば良いのだ、とは考えない。人々が気持ち良く過ごせて、憩いの場にもなり得る場所…。それが著者が考える理想の駅だそう。そのビジョンがあるからこそ、筋の通った提案ができるのだ。誰に何を言われても揺るがない、自分の核となる部分をしっかり持っておくことは、仕事をする上でとても重要なことだろう。
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駅の「パブリック・デザイン」はいったい何のため・誰のためにあるのか、それをわかっていないから、渋谷駅のような惨状が出来するのだろう(行ったことないけど)。 「駅」に関係する人は必読の書といえる。
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