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素晴らしきソリボ の商品レビュー

3.7

9件のお客様レビュー

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2024/06/26

1980年代、フランス海外県マルティニーク島。カーニヴァルの夜、久しぶりに姿を現した伝説の語り部ソリボに町の人びとは湧き立つが、語りの途中で彼は突然沈黙し、そのまま事切れてしまう。口汚い横暴な巡査とエリート警部がにぎやかな客たちを尋問するが、でてくるのはソリボの思い出話ばかり。一...

1980年代、フランス海外県マルティニーク島。カーニヴァルの夜、久しぶりに姿を現した伝説の語り部ソリボに町の人びとは湧き立つが、語りの途中で彼は突然沈黙し、そのまま事切れてしまう。口汚い横暴な巡査とエリート警部がにぎやかな客たちを尋問するが、でてくるのはソリボの思い出話ばかり。一人の語り部の死を通して、口承と文芸の結節点を模索するクレオール小説。 公用語はフランス語だが、町の人が普通に使っているのはいくつもの方言に分かれたクレオール語、公文書に記される名前はフランス語表記だが、実際に呼ばれているのは全然違う名前、というふうに、島では話し言葉と書き言葉の世界が完全にズレていることがたびたび強調される。語り手はシャモワゾー自身で、ソリボの死をめぐる狂騒的なお喋りを文字へと移し替えるその四苦八苦の様子も物語に取り込まれている。 謎の怪力で暴れまくる不死身の女・ドゥードゥーと、公権力に許されている以上の暴力で応戦するブアフェッスとその部下がどんどん殺人を犯していくのでソリボの影が薄いくらいなのだが、エリートのピロン警部が登場してからこのブアフェッスという男のキャラクターに厚みが生まれてくるところが面白かった。ブアフェッスは島の人びとに公文書で書ける言葉を話すよう要求するが、ピロンに対しては島の人の言葉をフランス語に置き換える通訳の役目を進んで果たすのだ。島の特権階級だという誇りが、下層民にはフランス語を押し付け、よそ者には現地語の豊かさを見せつける矛盾を彼に許している。 逆にピロンは物腰柔らかで島民たちにも理解が深そうにふるまうが、どこまでもヨーロッパ基準でしか物事を捉えられないネオリベの敗北を象徴するようなキャラクター。それが「物事をすべてミステリー小説のように考える」ということで表現されている。謎を解く=秩序回復をめざすミステリーは、陰謀論にも接近しやすいのだ。クリスティ的な尋問のお喋りと、口承のパロディとしての文芸というテーマは年始に読んだマコーマックの『ミステリウム』とも共通しているし、新本格っぽいとも言える。 好きなテーマなのだが、「口承に対して文芸は何ができるか」という問いが常に前面に押しだされている感じで島民のお喋りの世界に入りきれなかったし、問いを飲み込んでしまうようなパワーまではこの小説から感じられなかった。ソリボにお話を教えたのは女たちだったという辺りをもっと書き込んでほしかったなぁ。

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2023/03/16

パワフルすぎる中年女性のドゥードゥー=メナールめっちゃすき。 強さ議論できるくらいバトルアクションシーンが多い。

Posted byブクログ

2019/03/28

カーニバルの真っ最中タマリンドの木の下で、語り部ソリボは「言葉に喉を掻き切られて死んだ」。その場に居合わせた14人の目撃者(ほぼ無職)、彼らを重要参考人として尋問する警察。果たして犯人はー。安いオーデコロンの匂いとタフィア酒に酔い痴れながら、飛び交う罵詈雑言と繰り出されるパンチを...

カーニバルの真っ最中タマリンドの木の下で、語り部ソリボは「言葉に喉を掻き切られて死んだ」。その場に居合わせた14人の目撃者(ほぼ無職)、彼らを重要参考人として尋問する警察。果たして犯人はー。安いオーデコロンの匂いとタフィア酒に酔い痴れながら、飛び交う罵詈雑言と繰り出されるパンチを物ともせずに、太鼓の音に合わせて踊りたくなるような、五感の全てを動員して堪能する文学作品だった。需要が減りつつある炭を売る仕事と同様に、ソリボの口上はこの世界から求められる事は減り、退場を余儀なくされている。そんな口承文学の「素晴らしい転落」の末の最期の時を、バトンを渡された記述文学を持ってして、華々しく壮大な餞の言葉で送ってあげる事が、残された人間の務めなのだろう。

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2016/05/20

どうしてもあまり馴染みのない文化が背景にある小説って読むのに慣れなくて、ほとんど読めなかった・・・。「言葉に喉を掻き裂かれて死んだ」なんてフレーズはインパクトあるものだと思うのだけど。翻訳の関口亮子さんのあとがきが面白かった。

Posted byブクログ

2016/05/14

なかなか不思議な1作である。好き嫌いが分かれる、というよりも、わかる・わからないが分かれる、あるいは意味を求める人を振るい落とす作品と言ってもよいだろう。 著者はフランスの海外県、マルティニークに生まれている。地理的にはカリブ海の西インド諸島に属する土地だが、ヨーロッパ人の移入...

なかなか不思議な1作である。好き嫌いが分かれる、というよりも、わかる・わからないが分かれる、あるいは意味を求める人を振るい落とす作品と言ってもよいだろう。 著者はフランスの海外県、マルティニークに生まれている。地理的にはカリブ海の西インド諸島に属する土地だが、ヨーロッパ人の移入に伴い、元々住んでいたカリブ人はほぼ全滅。その後は、フランス人が入り込み、イギリスとの綱引きもあったが、最終的にはフランスが征し、現在、フランス人や彼らに連れてこられた黒人・クレオール人が人口の大半を占めている。加えて、華人・インド人・アラブ人が少々という構成である。フランス語が公用語、多くの人はクレオール語も解すが、仏語より下位のものとみなされているらしい。 著者は、クレオール文学の旗手ということになるようだ。クレオール語、クレオール文化とは何か、というと、門外漢にはいささか難しい問題になるのだが、ごくごく大雑把には、植民地で言葉のわからないもの同士が意思疎通をするために発展した簡易の共通語であり、マルティニークの場合にはフランス語を上位語として成立してきたものであると考えればよいだろう。 ごちゃごちゃと書いてきたけれど、ここで大切なことは、クレオールが「口承的」であるという点だ。文字で伝えるのではなく、語りのグルーヴで伝える言葉である。 語りの持つ力とは何か。 それが本書の大きなテーマであり、あるいは唯一の主題であるといってもよいのかもしれない。 主人公ソリボは貧しい炭売りである。社会の最下層におり、実のところ「ソリボ」とは退廃や転落を意味する。しかし彼は、「ソリボ・マニフィーク」という呼び名も持つ。「マニフィーク」とは素晴らしいを意味する。なぜそのような相反する名を持つかといえば、彼が突出した語り手であるからだ。昼は貧しい物売りなれど、夜になれば聴衆をわんさと集め、熱のこもった口上で皆を酔わせてみせるのだ。「みすてぃくりぃ?」「みすてぃくらぁ!」(「ノッてるか?」「ノッてるぜ!」)と合いの手を入れながら。 そのソリボが口上の最中で突然、変死を遂げる。果たして彼は殺されたのか。殺されたのなら犯人は誰だ? 警察が出動し、検視が行われる。13人の証人が現れるが、取調べの最中にも血なまぐさい悲劇が起こる。 そう書くとミステリのようだが、ことは単純な謎解きではない。ある意味、誰が殺したのか、途中でそんなことはどうでもよくなってくるような、先のわからない展開が続く。 証人それぞれが、それぞれの思いを語り、視点はあちらこちらに飛び、話は行きつ戻りつする。 稀代の語り部、ソリボの死因は窒息死だった。彼の喉を詰まらせたものはいったいなんだったのだろうか。 最後まで読んでも狐につままれたような部分が残るが、解説には、ある意味、整合性の取れた答えが提供される。 ああ、そうか、と納得する。それも1つの味わい方だろう。だが、実は本編を貫く「訳わからなさ」自体を味わうのも1つの読み方であるように思われる。 先にも書いたが、クレオールは口承に重きを置く。だが、小説にするということは、すでに語りを文字に置き換えるということだ。それは果たして可能なのか? さらには、それを邦訳で読むということは、翻訳というもう1つのフィルターを掛けることになる。解説には、訳出にあたっての苦労や裏話も記載され、このあたりも興味深い。 この物語を単体で読んで果たして理解できたのか、といわれると少々心許ないが、翻訳も解説もまた作品の一部だとするならば、よしとせねばならないのかもしれない。 何はともあれ、語りのリズム・うねりというものは、確かに存在するように感じられる。 一筋縄ではいかないが、万華鏡のようでもあり、多層性がある物語である。 語りの力というものが霞んだ向こうに少しずつ見えてくるようでもある。

Posted byブクログ

2016/05/01

http://tacbook.hatenablog.com/entry/2016/04/12/202846

Posted byブクログ

2015/07/01
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

意味があるのかないかより語られること自体が大事、だった時代の最後の名残を今の人に読める形で出してくれるもの。こういうのを日本語で書ける人って誰なんだろう。

Posted byブクログ

2015/05/14

リズミカルな文章ですらすらと読め、日本語訳だけど言葉の響きを楽しめた。カリブはいろんな歴史と文化が混ざり合っているんだなあ・・・。話の筋はいたって単純だが、物語の行方というより、消えゆく口承文学のリズム、哀愁を楽しむ小説だった。

Posted byブクログ

2015/01/19

カーニバルの夜、語り部ソリボは言葉に喉を掻き裂かれて死ぬ──クンデラに「ボッカッチョやラブレーにつづく口承文学と記述文学の出会い」と激賞された、クレオール文学の旗手の代表作。

Posted byブクログ