清流の心電図 の商品レビュー

香川紘子(著者)

2024/07/28

香川紘子さんの詩集ですね。
香川紘子さん（1935年生まれ）愛媛県在住、詩人。
障害を持たれているので、執筆は亡くなられたお父さんとお母さんがされていたそうです。ご両親の亡き後は詩友の森原直子さんが、引き受けてくださっておられるそうです。

　　　　　山のあなたの

　長短五つの墜道を抜けて
　〈山のあなたの…〉をめざしてひた走る車は
　国道を逸れ
　細い山道を上りつめ
　一軒の農家の前で止まった

　車椅子に乗り換えた私は
　清浄な秋の日差しの中で
　供物のヒマワリの種子を載せた右手を指し延ばして
　鳩ならぬヤマガラの降臨を待った

　やがて　ツツピーという鳴き声とともに　
　風を切って飛来したヤマガラが
　私たちの周りを旋回し始めた
　渦巻く羽音がだんだん狭まって
　啓示のように私の肩や手に触れ
　萎えた私の親指をしっかりと掴み
　ヒマワリの種子を咥えて谷間に飛び去った

　厳しい冬場に備えて
　巣穴の石垣や土に
　ヒマワリの種子を植え込む
　ピストン輸送は何度も繰り返された

　かっては
　おみくじを手渡すように飼い慣らされていた
　ヤマガラの末裔が占う
　この国の未来は…

　折々の印象に残った事柄や、戦争の記憶等を詩編にされています。率直な感想を瑞々しく詩作されています。メジャーな詩人さんではありませんが、図書館で何気なく手に取った、地元の詩人さんの詩集です。
　清流のような清涼な詩を味わえました。