六人のいけない人妻 の商品レビュー
不意の訪れから始まる昼下がりの情事な短編集
読んでいる途中から気づいたのだが、各話が全て『昼下がり、電話が鳴ったー。』で始まっている。巻末に初出掲載の記述が無いために書き下ろしと勝手に判断しているが、こうした「縛り」を課して執筆するアイデアは面白いと思う。この書き出しからも推測できるように、人妻の昼下がりの情事をテーマにし...
読んでいる途中から気づいたのだが、各話が全て『昼下がり、電話が鳴ったー。』で始まっている。巻末に初出掲載の記述が無いために書き下ろしと勝手に判断しているが、こうした「縛り」を課して執筆するアイデアは面白いと思う。この書き出しからも推測できるように、人妻の昼下がりの情事をテーマにした全6編の短編集である。 セールスマンや宅配業者、あるいは通っている診療所の医者といった、専業主婦と接点のできやすいタイプから職場の元上司に教え子のような仕事で接点のある(あった)タイプ、そして同窓会で再会したかつてのクラスメイトという過去の繋がりまで、人妻の周辺を取り巻く「夫以外の男」がほぼ網羅されている悩ましい設定。 その中で、電話を受けることから始まる、つまり、少なくとも序盤のヒロインは総じて受け身で自らは不倫など望んでもいないのに、ふとした出会いからときめくものを覚え、押され気味ながら関係を持つに至り、逆に終盤ではヒロインの方が積極的にのめり込んでしまう展開をメインとしている。そんな文字通りな昼下がりの情事にして、タイトル通りにいけない人妻達の末路は滑稽ながらシニカルでウィットを感じさせるものが多く、読物としての面白さもあった。電話を受ける際のちょっとした違いで人妻のキャラを描き分けているのも巧みであり、各話の冒頭で読み手を「掴む」機能も果たしていたように思う。 そんな情事の始まりから終わりまでを描いているだけに、各話30頁強から50頁弱という少ない紙面に反して官能要素は高い印象。夫の帰宅を気にする場面がほぼ毎回出てくることからも窺えるような物語との相乗効果のある、官能小説ならではの描写だったのがその理由かもしれない。
DSK
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