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2015/10/30
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平成26年7月、安倍内閣は従来の政府の方針を変更し、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行った。 本書は、この閣議決定後、年末の国政選挙までの間に、自衛隊の来歴を確認することで、自衛官のメンタリティを探るという意図をもって、毎日新聞の編集者によって上梓された。 本書で取り上げられた事例は、オウム真理教地下鉄サリン事件、60年安保、三島由紀夫の自決。そして、戦後から東日本大震災までの政治家、防衛庁、自衛隊の行動。さらに、当時の(新聞記者の目から見た)国民の考え方。 それら歴史的事実を研究した記者は、次のような考えを持つ。 「自衛隊という軍組織は、私たちの想像以上に従順に法律を守り続ける存在なのだ。」 自衛隊は、戦えない組織なのではない。法で認めていることを純粋に守り続ける存在である。 政治家は、間違いを犯すことがある。しかし、自衛隊が行動を起こすと、取り返しのつかない事態が発生する可能性がある。だから、彼らは法律に従って行動するということがDNAレベルまで書き込まれているのだ。 実例として挙げられているのが、60年安保における治安出動について。 当時の岸首相は、赤城崇徳防衛庁長官に陸自の治安出動を強く要請した。だが、赤木はこれを断固拒否した。憲法9条という制約のある自衛隊が同胞に銃を向けるなどあってはならない、との信念ゆえだった 文民統制がとられている我が国において、文民がその行動を誤った時。自衛隊は、国民に銃を向ける事態となっていたかもしれない。 この時は、毅然とした態度をとった赤城防衛庁長官によって、危機は回避されたが。 そして、いま、その岸首相の孫が、自衛隊に新たな任務を与えようとしているというのは、非常に興味深い一致である。 また、自衛隊が災害派遣という形式をとりつつ、国内のテロ組織に対処したとき、自衛隊はいち早く化学防護の専門家を派遣するなどの行動をとった。それは、阪神淡路大震災において、初動の遅さを国民から非難された歴史を背負っているからであろう。 本来自衛隊は法律では、防衛大臣が命じない限り「待機」すらできない。だた、危機は迫っている。だから、命令公式には「禁開封」と赤字で書いておくから、非公式で読め。そういう「あ・うん」の呼吸に頼る行動が、自衛隊には良くある。このことは当時も今も、誰も認めない。だから、私の想像である。 本来、法を厳格に守る自衛隊が、指揮命令系統の非公式な意味を忖度して行動しなければならない。これは、今年の国会で共産党議員が指摘した、法律が成立する以前に準備していたという行動に通じる。しかし、それは、指揮官(防衛大臣)が、認めた行動であったこともまた後から確認されている。 さらに、本書で取り上げられている防衛大学宮坂教授の発言も非常に興味深い。 「オウム事件に強い関心を持って来日する海外の研究者は、当然日本政府の公式検証があると思って私を訪ねてくる。しかし、ない、そういうと信じられないという顔をされる。 欧米では国家的な危機があれば、必ず第三者委員会などができて、レビューする。イラク戦争時、大量破壊兵器がないのに、ある、となったのはなぜなのか? 9.11ではテロリストのしっぽをつかんでいたのに、防げなかったのはなぜか?きちんと検証している。 しかし、オウム事件の教訓を政府の公式な検証報告がなくて、どうやって教えるのか。第二次世界大戦の国家としての検証もない。失敗の教訓がオーソライズされて残されていない。これではまた、戦争が起きてしまう。 東日本大震災では、国会による検証があるにはあった。しかし、内容は不十分だったといわれる。イラクへの自衛隊派遣はどうだったのか、政府の検証報告は存在しない。 先の大戦に関する、本格的、かつ、徹底的な検証報告もない。 これが、私たちの日本の本質なのだろうか? 危機に対処するミリタリーという存在は遠ざけ、起きたことは水に流す。忘れたころに出現する危機に、またそこで慌てふためく。」 これは、自衛隊についてのみおこる問題ではない。 東電原発事故がレビューされていないことはもちろんとして、粉飾決算を行って多くの投資家に被害を与えたのに明確な調査結果を公表しない、東芝、監査法人、証券市場。姉歯建築士の偽装が、建築士個人の問題だけであったのかは確認されないまま、くい打ちデータの改ざんで大騒ぎとなっている問題など枚挙にいとまがない。 不具合、事故、などが起こったら、公式に検証する。 そして、次におこる万一の事態のために備える。 それは、たとえば、現在の憲法の下、自衛隊が存在することに無理がありながらも、その重要性が増しているのであれば、きちんと問題を整理したうえで、憲法を改正する必要があるといった議論にもつながっていくべきだと思う。

Posted byブクログ