大脱出 の商品レビュー
01.14.2016 読了 2015年ノーベル経済学賞受賞者のアンガス・ディートンの著書。 健康と死、経済の格差を理路整然と説いている。第I部では、公衆衛生の整備と教育は成果がでやすいことがよくわかった。 以下、興味深かった章。 第2章 「有史以前から1945年まで」では人類の...
01.14.2016 読了 2015年ノーベル経済学賞受賞者のアンガス・ディートンの著書。 健康と死、経済の格差を理路整然と説いている。第I部では、公衆衛生の整備と教育は成果がでやすいことがよくわかった。 以下、興味深かった章。 第2章 「有史以前から1945年まで」では人類の生と死の歩みが記されている。疫病に対するイノベーションとその広がりが、死亡率の低下に役立ってきたこと。その繰り返しが今に繋がっていることが興味深い。また、世界的な乳児死亡率の変遷や平均余命の上昇の分析は面白い。 第6章 「グローバル化と最大の脱出」では、現在、各国が置かれている状況について分析し、グローバル化によって格差が広がっていることを示している。本来であれば縮まるであろうものが・・・。という切り口で。 第7章 「取り残された者をどうやって助けるか」は本書の核。シンプルに富裕国の援助が貧困国の政治を腐敗させている。ODAやNPOなどの援助は窮困している人々の手に渡らない。では、何をすべきか? (直接的な援助、介入ではなく、)グローバル化が貧しい人々の利益となる形で機能する国際的な政策を支持することだ。と。
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本年度ノーベル経済学賞受賞となったAngus Deaton先生が2013年に出版し、各賞を総なめした一冊で、人類の経済発展(貧困からの脱出)、及び健康の改善の歴史のこれまでの研究成果を、映画「大脱走」(J・スタージェス監督 1963年)になぞらえて(自身の一族の歴史も重ねて)描いています。 前半(第1部)が健康の歴史についてのサーベイで、経済成長と健康の間に相関関係が無いことが示され、公衆衛生や教育の重要性が強調されています。 後半(第2部)は、経済発展の歴史のサーベイで、「第5章 アメリカの物質的幸福」では、ピケティ&サエズ(2003)http://eml.berkeley.edu//~saez/pikettyqje.pdf も引用されますが、『21世紀の資本』(2014)の様なマルクス主義的な解釈は採られておりません。 最後に(第3 部 助け)「第7章 取り残された者をどうやって助けるか」が、本書のもっとも特徴的な部分で、これまでの先進国から貧困国への大量の海外援助(ODA等)が役に立つどころか、寧ろ、経済発展の邪魔をしていただけだ、とDeaton先生は主張します。 即ち、貧困国では、通常、民主主義制度が確立しておらず悪徳&専制政治家が、自らの政権維持・強化のために援助資金を流用してしまうためです。また、健全な政権であっても、大量の援助資金を手にすると、民主主義の根幹である国民から税金を徴収する必要が無くなって国民のガバナンスが効かなくなり、腐敗を誘発する、と指摘します。 また、最近開発経済学で流行のデュフロ-等が推進するランダム化対照実験によるプロジェクト評価についても、無条件に「何が効くか」一般化して考えるのは役に立たない、と一蹴されます。 では、我々(先に貧困から脱出した先進国)は何をすべきか?という問いに対して、Deaton先生は、(従来型の援助は)何もするな(武器も売るな)、と仰いますが、成功例としては、貧困国に直接介入しない、HIV等の伝染病医薬品の開発が挙げられ、先進国にない貧困国固有の疾病(マラリア等)の医薬品の開発協力が薦められています。(医学・生理学賞を受賞した大村先生のパターンですね。)また、技術支援や(アフリカ)貧困国の学生に(欧米)先進国への留学の奨学金を出すことも長期的な処方箋として薦められてます(ルワンダ ディアスポラの例ですね)。 Angus Deaton wins Nobel Prize for economics - FT http://www.ft.com/cms/s/0/1c2b99e4-70ce-11e5-ad6d-f4ed76f0900a.html#axzz3oLzs7NBk 格差・貧困への注目、大きな反響 経済学賞にディートン氏 http://www.nikkei.com/article/DGXLASGH12H11_S5A011C1000000/… ノーベル賞経済学者ディートンの業績解説など http://togetter.com/li/886213 Episode 41: The Great Escape (Angus Deaton) http://developmentdrums.org/824 アレックス・タバロック/タイラー・コーエン「ノーベル経済学賞はアンガス・ディートンが受賞」 http://econ101.jp/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%BF%E3%83%90%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%EF%BC%8F%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%80%8C/
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主に健康の観点から世界の貧困を観察した本で、本書での分析や既にある政策はとても説得的で、新たな重要な観点の提供はとても価値あるものであり、全体を通じて良書であると言える。唯一玉に瑕なのが、貧困から大脱出するための具体的な案がほとんど書かれていないことだ。なので星4つの評価となった...
主に健康の観点から世界の貧困を観察した本で、本書での分析や既にある政策はとても説得的で、新たな重要な観点の提供はとても価値あるものであり、全体を通じて良書であると言える。唯一玉に瑕なのが、貧困から大脱出するための具体的な案がほとんど書かれていないことだ。なので星4つの評価となった。
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