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湯浅泰雄全集(4) の商品レビュー

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2022/05/05

『ユングとヨーロッパ精神』(人文書院、1979年)のほか、著者の論考10編を収録しています。 『ユングとヨーロッパ精神』は『ユングとキリスト教』の続編とも言える内容で、ユングの錬金術に関する研究を中心に、ヨーロッパ思想史の裏面に流れるもう一つの精神史的潮流を浮き彫りにしようとし...

『ユングとヨーロッパ精神』(人文書院、1979年)のほか、著者の論考10編を収録しています。 『ユングとヨーロッパ精神』は『ユングとキリスト教』の続編とも言える内容で、ユングの錬金術に関する研究を中心に、ヨーロッパ思想史の裏面に流れるもう一つの精神史的潮流を浮き彫りにしようとしています。著者の議論の手がかりとなっているのが、ユングとウェーバー、フロムの比較です。ウェーバーがヨーロッパにおける「魔術からの解放」を積極的に評価したのに対して、ユングはフロム同様、近代プロテスタンティズムにおける倫理観が近代の精神的危機を招来したという立場をとっています。しかしユングは、フロムのように不安という集団的・社会的心理状況から人びとがプロテスタンティズムへと向かったという説明は採用せず、逆に内面的な宗教経験の中に近代精神の危機の根があることを明らかにしようとしたのではないかと、著者は考えます。 著者は、アリストテレス以来の西洋形而上学が、外的自然に関する考察を中心にして生理学や心理学などの内面的な領域へと進んでいったのに対して、東洋では内面的な魂の根底へと向かっていく伝統的思考様式があったと主張し、前者を「メタ・フィジカ」、後者を「メタ・プシキカ」と呼んでいます。そして、ユングのグノーシス研究や錬金術研究が、ヨーロッパ形而上学の主流である「メタ・フィジカ」の裏にかくされた「メタ・プシキカ」の流れを明らかにするような意義をもっていたと論じています。 『ユングとヨーロッパ精神』に関しては、著者自身「あとがき」で、「今読み返してみると、作品の完成度は低い感じがする」と述べていますが、たしかに議論の枠組みがあらかじめ決まっていて、細部の議論に拘泥しているような印象もあります。とはいえ個人的には、ユング心理学と錬金術の関係について一つの解釈の枠組みを得ることができたという意味で、興味深く読みました。

Posted byブクログ