カバラー 知の教科書 の商品レビュー
ユダヤ教における神秘思想、カバラーを学術的に解説した書。「この世」志向的であるユダヤ教において形而上学や神話的概念を扱ってきたカバラーの歴史や思想を、『ゾーハル』やモーシェ・コルドヴェロ、イツハク・ルーリヤの学説を中心として解説する。 本書は、Pinchas Giller, Ka...
ユダヤ教における神秘思想、カバラーを学術的に解説した書。「この世」志向的であるユダヤ教において形而上学や神話的概念を扱ってきたカバラーの歴史や思想を、『ゾーハル』やモーシェ・コルドヴェロ、イツハク・ルーリヤの学説を中心として解説する。 本書は、Pinchas Giller, Kabbalah: A Guide for the Perplexed(Bloomsbury Publishing, 2011)の邦訳である。世界の創造や霊魂の在り方など、"表向きの"ユダヤ教(特にユダヤ哲学)では重視されて来なかった形而上学を扱う神秘主義思想、それがカバラーである。セフィーロートや「器の破裂」といった世界観、人間の霊魂の構成とその輪廻説、神の名の奥義や戒律・祈りの形態――カバラーの聖典的文書『ゾーハル』や、コルドヴェロやルーリヤといった著名なカバリストの著作に現れる学説を中心として、本書はカバラーの思想をテーマ毎に解説していく。またカバラー思想の歴史的展開についても、ニューエイジやハシディズムなど今日のカバラーの様相を含めた上で概説している。 本書を読んで印象深かったのは、カバラーとは伝統的ユダヤ教の「内なる」部分であり、今日の標準的ユダヤ教徒の儀礼や生活様式の基礎となっているという著者の主張である。「神秘主義」という言葉だけだと「主流派からの逸脱」「特別的な思想」というイメージを抱きがちであるが、カバラーの伝統とは概して正統的(標準的)ユダヤ教の枠を逸脱するものではなく、寧ろそれらを構築してきたものなのである(なればこそ、著者はカバラー的な生き方とは「基本的なユダヤ教の儀礼を順守することである」と説く)。同時に著者は、今日の学術的なカバラー理解と実際の信仰の場におけるそれとに断絶があることをも指摘している。こうした視点は、学術的な研究者であると同時にラビ(宗教指導者)である著者ならではの視点であると感じられた。 グノーシス主義に関する理解が怪しいなどの点はあるものの、総じてカバラー思想の要点を一望できる良書である。
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