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労働のオントロギー の商品レビュー

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2020/01/05

マルクス主義は、言語学や人類学とならんで、フランス現代思想の地下水脈の一つになっています。本書は、フランス現代思想のなかにマルクス主義の労働観がどのようなかたちで継承されているのかを紹介するとともに、その批判的検討を通じて、いっそう豊かな労働のとらえかたをさぐろうとする試みです。...

マルクス主義は、言語学や人類学とならんで、フランス現代思想の地下水脈の一つになっています。本書は、フランス現代思想のなかにマルクス主義の労働観がどのようなかたちで継承されているのかを紹介するとともに、その批判的検討を通じて、いっそう豊かな労働のとらえかたをさぐろうとする試みです。著者がとりあげるのは、構造主義的マルクス主義者のアルチュセール、ギリシア出身の社会思想家C・カストリアディス、そして内在性の現象学の提唱者として知られるM・アンリの三人です。 アルチュセールはマルクスの労働過程論を、社会的実践としての認識過程ありかたを論じたものと理解します。しかし、こうしたエピステモロジーの立場は、われわれの実践を世界を生産というただ一つの活動から眺めるギリシア以来の「観想主義」にほかならないと著者はいい、生産は新しきものの産出ではなくつねに再生産であるとみなす生産中心の労働観が無批判的に受け継がれていることを指摘します。 これに対してカストリアディスは、メルロ=ポンティの社会哲学などを参照しつつ、「制度化する社会」と「制度化される社会」を区別し、前者の行為の創造的役割を重視しました。しかし彼は、それを実現する方途をわれわれの「想像力」のうちに求めながらも、その内実を具体的に展開するには至らなかったと著者はいいます。 アンリは「労働」を、私たちの「生」の自己触発に基づいて理解しようとしています。しかしこうした「内在」の立場は、諸個体の織り成す社会的関係をあつかうには不向きだと著者は指摘しています。 こうした検討を経たうえで、著者は「労働」の概念を生産に限定するのではなく、社会的な連合を可能にするような行為としての「労働」の概念を求めるべきだという展望を語っています。

Posted byブクログ